2022.11.29 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

Every cloud has a silver lining?

クラウド市場は引き続き成長を続けている。Synergy Researchによれば、2022年第3四半期のクラウド投資額は全世界で575億ドルに上った。ドル高と中国市場の減速が指摘される中でも、昨年同期と較べ110億ドル増、24%の成長となる。もし為替レートが昨年同様であれば、成長率は30%を超えたとみられている[1]。

しかし、各社の状況を見ると状況は必ずしも良いことばかりではない。Amazon Web Services(AWS)は、景気後退により顧客がクラウドへの投資を控えていると認めている。Microsoft Azureも市場が期待するほどの成長を遂げることはできなかった。このような成長の鈍化が一時的なものにとどまるかは不明であり、世界経済の不安定性やエネルギー問題など課題も多い。本稿では、大手クラウド各社の決算と動向、抱える課題を見ながら、今後予想される動きについて検討したい。

大手クラウド各社の2022年第3四半期決算

業界トップシェアを占めるAWSの売上高は、第3四半期に205億ドルとなった。前年同期比27.5%の増である。しかし、これはAmazon.comが2014年にAWSの実績を個別に示すようになって以来最も低い成長率となっている。アナリストの予想も下回った。決算説明会でCFOのBrian Olsavsky氏は、「マクロ経済の不透明感が続く中、コスト抑制に注力するAWSの顧客が増加している」と述べた。また、「AWSの歴史を通じて行ってきたのと同様に、特に経済が不安定な時期には、顧客のコスト最適化のために積極的に取り組んでいる」として、「ストレージを低価格帯のオプションに移動したり、ワークロードをGravitonチップ(Amazonが開発した独自チップ)に移行したりといったことを支援する」としており、顧客の支出減(もしくは増加の抑制)を図っていることを明らかにしている。アナリストの質問に対しOlsavsky氏は、欧州の経済はロシアのウクライナ侵攻とエネルギー危機により深刻な影響を受けており、同社はAWSのエンタープライズ顧客と話して、請求額を下げる努力をしていると述べた。また、AWSのマージンが下がっている理由の質問に対しては、電気代や天然ガス価格の影響を受けて、エネルギーコストが大幅に上昇していることを挙げ、より少ないエネルギーでオペレーションを最適化する方法の模索を続けると述べた[2]

Microsoftの“Intelligent Cloud”の収益は第3四半期に203億ドルとなり、前年同期比で20%の増加となった。内訳は明らかにされていないが、サーバー製品およびクラウドサービスの収益が22%増となり、Azureおよびその他のクラウドサービスの収益が35%増となったと発表されている。また、Microsoft Cloudの収益は257億ドルで、前年同期比24%増であったとされている。なお、Azureなどの利益率は低下している。これについて同社は、エネルギーコストが想定よりも年間で8億ドル増加したことを挙げている。会長兼CEOのSatya Nadella氏は、決算説明会の冒頭で「コスト構造を規律正しく管理する」と述べている[3]

Google Cloudの収益は68億6,800万ドルで、対前年同期比38%増となった。しかし、赤字幅も6億4,400万ドルから6億9,900万ドルへと拡大している。親会社AlphabetとGoogleのCEOであるSundar Pichai氏は決算報告会の中で、「以前から、クラウドが会社の重要な優先事項」と述べ「クラウドの導入を促進する長期的なトレンドは、マクロ経済が不透明な時代には、さらに強い役割を果たす」としている。一方で、両社のCFOであるRuth Porat氏は、売上原価の増について「最大の要因は、データセンターおよびその他業務に関連する費用であり、次いでハードウェア費用」と述べ、かつ「一部の顧客は意思決定に時間を要し、短期間または小規模の契約を締結しているが、これはマクロ環境がより厳しくなっているためと思われる」と述べた。ただ、Porat氏はそれでも「クラウドの継続的な勢いに満足している」とし、「長期的なビジネスチャンスに引き続き期待している」と述べている。氏は、「収益性とフリー・キャッシュ・フローを強化することに依然として重点を置いて」おり、「優先順位のつけ方を検討している」としつつも、投資を継続するとの意向を示している[4]

これらの動向の受け止め方はさまざまである。Gartnerによれば、グローバルでのパブリッククラウドサービスに対するエンドユーザーの支出は、2022年の4,903億ドルから、2023年には20.7%増の5,918億ドルに達すると予測されている。これは、2022年の成長率予測18.8%を上回っている。また、2023年の予測の中でもIaaSの伸び率が最も高く、29.8%の成長が見込まれている。同社Vice President AnalystのSid Nag氏は、「クラウドコンピューティングは、その俊敏性、柔軟性、拡張性により、今後も安全性と革新性の拠り所となり、不確実な時代における成長を支えていく」としている。一方で氏は、「しかし、企業は今あるものしか使うことができない。クラウドがIT支出の最大の部分を占め、それに比例して予算も増加し続けていることから、IT予算全体が縮小すれば、クラウド支出は減少する可能性がある」とも述べている[5]

各社の抱える課題

2022年の第3四半期には各社が強い成長力を見せる一方で、主にクラウドサービスを支える基盤の部分で、クラウド成長の常識に水を差すような事件もあった。The Telegraphの7月2日の報道によれば、Microsoftの主要なクラウドサービスは、英国ベースのサービスを希望する新規顧客の受け入れを停止していたとされている。これについては、同社がウクライナ政府のITシステムをホストしたことによる影響が出たとみられている。同社は世界的なマイクロチップ不足のため、容量を簡単に拡張することができなかった。英国のマネージドサービスプロバイダーは、UK Southリージョンで需要が高いことを理由として、Azureの新製品購入の申し込みを何度も拒否されたと報じられた。Microsoftの広報担当者も容量の問題を認め、過去2年間にクラウドコンピューティングに対する需要が前例のないほど伸びたと述べている[6]

また、The Informationによれば、Microsoftの現マネージャー2人と大手顧客側で働くエンジニア1人が、世界各国のAzureデータセンターのうち24以上で、顧客に提供できるサーバーの容量が制限された状態で運用されていると語ったことが報じられている。さらに、同社のマネージャーの1人は、米国ワシントン州中央部にある主要なデータセンターをはじめ、欧州やアジアなど6つ以上のAzureデータセンターで、来年初めまでサーバーの容量が制限される見込みであるとコメントしたとされている[7]

サプライチェーン問題だけでなく、Microsoftによるウクライナ支援が別の課題をもたらしているとの指摘もある。報道によれば、同社は必要なときにクラウドセキュリティサービスを起動することを優先しており、これによりワークロードの分散を効率的に行うことができなくなっているとされる。

これらの報道に対し、Microsoftは容量制限の詳細にはコメントしていないものの、「世界中で、クラウドはかつてないほどの成長を遂げている」として、「弊社はお客様の容量増加に対応するための措置を講じるとともに、弊社のデータセンターへのサーバー配置を迅速化している」「私たちは、お客様のビジネス継続性を確保することを最優先に考えている」「必要に応じて積極的に負荷分散を行っている。もし容量制限を行う必要が生じた場合は、まずトライアルと内部ワークロードを制限し、既存のお客様の成長を優先させる」とコメントしている[8]

AWSも別の形でリソースの課題に直面したとされている。同社も各社同様リソースの拡充を進めているが、米国ヴァージニア州北部でのデータセンター開発にあたり、地元から反対を受けた。2022年3月、カルペパー郡の計画委員会(Planning Commission)は、243エーカーのデータセンター開発用地への区画整理の提案に対し、農地の損失や戦場跡地州立公園計画における保存状態の良い景観への悪影響を懸念する住民による抗議が相次ぐ中、拒否を推奨する票決を行った。その後、結果としては郡委員会(County Board)でこの区画整理案は承認された[9]。また、同州プリンスウィリアム郡でも、2022年7月、AmazonのTanner Wayデータセンターキャンパスからの「壊滅的」な騒音に関する市民の苦情が発生し、郡監督委員会の委員長が対応したケースが報告されている[10]。このほか、大手クラウドサービス企業以外でも、Facebookの運営会社Metaが2022年6月、オランダ・ゼーウォルデに計画していた巨大データセンターの建設を中止すると発表している。これも地元の反対の結果である。

多くのデータセンターの建設が進むとともに、大型化・高密度化も進んでいるため、景観や、電力・水資源利用、騒音などに関するさまざまな課題が指摘されるようになってきている。課題の詳細は別稿にて報告するが、データセンターの建設にもさまざまな制約が出てきている。

クラウド使い放題の常識は変わるか

大手クラウド事業者はこれまで一貫してクラウドのスケーラビリティをアピールしてきた。必要最小限のリソースでスモールスタートし、必要に応じてリソースを追加、削減することができる(「オートスケーリング」でこれを自動的に行うこともできる)ことが大きなメリットだった。クラウド事業者が需要に応じていつの間にかどこかにデータセンターやサーバーを用意しておいてくれて、使いたいと思えばいくらでも使うことができる(もちろん費用はかかるが)という認識、信頼感が形成されてきた。しかし今や、その認識には影が差してきているのかも知れない。

Innofactor NorwayのPrincipal ConsultantであるAidan Finn氏はブログで、「数年間Azureを使用してきたほとんどの人は、恐ろしいデプロイメントの失敗を経験している―『選択したリージョンに容量がないため、容量を確保できません』」と述べている[11]

選択したリージョンでサービスを利用できない場合、仮に他の大陸のリージョンに拡張することでサービスが利用可能になるとしても意味がないことがある。各国ではデータ保護に関する法規制があり、他の地域にデータを動かすことは難しい場合があるからだ。また、高度に統合されたシステムの場合、通信の不安定さや大きな遅延は許容されない。後者に関しては、もちろんプライベートの通信サービスの追加等でこれらを解決することは可能だが、それもまた新たなコストの発生を意味する。そしてユーザーは通信費用だけでなく、増築を繰り返したビルのような複雑なシステムを抱えることになる。

Finn氏は解決策としてオートスケーリング機能の停止や容量の事前予約、最新でないプロセッサーの活用などを挙げている。これらは現実的な対策だが、これまで期待されてきたクラウドのメリットを損ない、コスト上昇につながる可能性がある。

2023年の動向は

表題の“Every cloud has a silver lining”は英語のことわざで、雲の向こうには希望の兆しがある、といった意味である。ただし、今回はこれに疑問符をつけることになった。最初に述べたように、大手クラウド各社は成長を続けており、市場関係者も強気の姿勢を崩していない。クラウドは不況に強いとの指摘は以前からある。一方で、ロシアのウクライナ侵攻や、日本でも世界各国でも終わりの見えないCovid-19の影響、エネルギーやサプライチェーンの問題を考えれば、まだまだマイナス要因も多く、バラ色の未来だけを予測するのは適切でないだろう。

使い放題のクラウド利用によるコスト削減は一巡しつつあり、クラウド利用=効率化という単純な図式はさまざまな要因で終わりに向かっているのかも知れない。クラウドの普及が進み、コストが下がるものには既に手が打たれたとも考えられる。これからも大手クラウドの役割は増すだろうが、むしろこれからは、クラウド一辺倒ではなく、大手クラウド、データセンター、エッジコンピューティングなどさまざまなパーツや方式を組み合わせた新たなアーキテクチャー(「Web3」と呼ばれるものも含めて)による最適解が求められると考えられる。

2023年がどのような年になるのか、希望の兆しが見えるのかどうか、引き続き注目したい。

[1] Q3 Cloud Spending Up Over $11 Billion from 2021 Despite Major Headwinds; Google Increases its Market Share https://www.srgresearch.com/ articles/q3-cloud-spending-up-over-11-billion-from-2021-despite-major-headwinds-google-increases-its-market-share

[2] Amazon (AMZN) Q3 2022 Earnings Call Transcript https://www.fool.com/earnings/call-transcripts/ 2022/10/27/amazon-amzn-q3-2022-earnings-call-transcript/

[3] Earnings Release FY23 Q1 Microsoft Cloud Strength Drives First Quarter Results   https://www.microsoft.com/en-us/Investor/earnings/FY-2023-Q1/

[4] Alphabet Q3 2022 Earnings Call https://abc.xyz/ investor/static/pdf/2022_Q3_Earnings_Transcript.pdf

[5] Gartner Forecasts Worldwide Public Cloud End-User Spending to Reach Nearly $600 Billion in 2023 https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2022-10-31-gartner-forecasts-worldwide-public-cloud-end-user-spending-to-reach-nearly-600-billion-in-2023

[6] Microsoft declines new cloud customers after promise to Ukraine https://www.telegraph.co.uk/ business/2022/07/02/microsoft-declines-new-cloud-customers-promise-ukraine/

[7] Microsoft Cloud Computing System Suffering From Global Shortage https://www.theinformation.com/ articles/microsoft-cloud-computing-system-suffering-from-global-shortage

[8] Azure's capacity limitations are continuing. What can customers do? https://www.zdnet.com/article/ azures-capacity-limitations-are-continuing-what-can-customers-do/

[9] Residents in Culpeper sue the county over zoning decision for AWS data center https://www. datacenterdynamics.com/en/news/residents-in-culpeper-sue-the-county-over-zoning-decision-for-aws-data-center/

[10] Prince William residents complain of "catastrophic noise" from data centers https://www. datacenterdynamics.com/en/news/prince-william-residents-complain-of-catastrophic-noise-from-data-centers/

[11] Dealing With Azure Capacity Shortages https://aidanfinn.com/?p=22679

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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