2023.7.13 InfoCom T&S World Trend Report

急成長している中国の自動車市場 ~新エネルギー車やスマートカーが寄与~

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はじめに

2023年1-3月期の中国の自動車輸出台数は対前年比70.6%増の99.4万台[1]となり、日本の95.4万台[2]を上回り世界1位となった。急成長している中国の自動車輸出に寄与しているのは、EV車を中心とした「新エネルギー車」(中国語では「新能源汽車」)の輸出である。新エネルギー車とは、中国独自の定義[3]になるが、新型動力システムを採用し、完全に、または主に新エネルギーによって駆動される自動車で、プラグインハイブリッド車(PHEV(エクステンデッド・レンジ式EV(EREV)を含む))、電気自動車(BEV)、燃料電池車(FCV)などが含まれる。2023年1-3月期の中国の自動車輸出台数のうち、新エネルギー車の輸出台数は対前年比1.1倍の24.8万台で、自動車輸出全体の約1/4を占める。中国国内においても、温室効果ガス排出量削減や省エネの推進などにより、新エネルギー車の販売が急増しており、自動車のグリーン化が進んでいる。2023年1-3月期に、中国で販売された新エネルギー車の台数は158.6万台で、自動車販売台数の26.1%を占める。

中国では自動車のグリーン化のほか、先進運転支援システムなどが搭載されるスマートカーの導入など、自動車のインテリジェント化も進展している。本稿では、中国の自動車市場におけるグリーン化とインテリジェント化の最新動向について考察する。

自動車のグリーン化
―新エネルギー車産業促進

中国国務院は2020年11月に、新エネルギー車産業の発展に関する国家戦略として、「新エネルギー車産業発展企画(2021-2035年)」を公表[4]した。同企画では、「電動化、コネクテッド化、インテリジェント化の発展方向を堅持し、融合イノベーションを重点として、キーポイントとなるコア技術を突破、産業発展環境を最適化して、我が国の新エネルギー車産業のハイクオリティかつ持続可能な発展を推進し、自動車強国の建設を加速する」との方針を示している。さらに、「2025年までに、純電動の乗用車新車の平均電力消費を12.0kWh/kmまでに低減する」など、EV車の推進に関するいくつかの数値目標も掲げている(表1)。

【表1】「新エネルギー車産業発展企画(2021-2035年)」で掲げている数値目標

【表1】「新エネルギー車産業発展企画(2021-2035年)」で掲げている数値目標
(出典:中国国務院「新エネルギー車産業発展企画(2021-2035年)」より抜粋)

新エネルギー車産業の国家戦略による推進もあり、中国における新エネルギー車の市場は急拡大しており、特に乗用車市場において新エネルギー車が浸透している。2023年1~4月に販売された新エネルギー乗用車新車台数は184.1万台となり、対前年比で35.8%増加し、乗用車新車販売台数全体の31.3%を占めている(図1)。また、新エネルギー車のカテゴリ別の販売台数では、BEVが約7割を占めている。

【図1】中国における新エネルギー乗用車販売台数、浸透率※1,2

【図1】中国における新エネルギー乗用車販売台数、浸透率※1,2
(出典:中国自動車流通協会データをもとに作成)
※1 浸透率は乗用車販売台数に占める新エネルギー車の割合
※2 BEVの販売台数にはFCVの販売台数が含まれる

新エネルギー車の浸透率の上昇に伴い、消費者の電気自動車に対する受容度も高まっている。McKinsey & Companyが中国の消費者に対して実施したアンケート調査では、次回自動車を購入する際に考慮する自動車の種類について、「ガソリン車のみ考慮する」と回答した消費者の割合が低下する一方、「電気自動車を考慮する」と回答した消費者の割合が年々上昇しており、2022年には68%となっている(図2)。

【図2】消費者が次回自動車を購入する際に

【図2】消費者が次回自動車を購入する際に

表2は、2023年1~4月の中国における新エネルギー車販売台数上位10位のメーカーを示している。1位を占めているのはBYDで、同期に販売した新エネルギー車台数が70.3万台、対前年同期比81.3%の伸びとなり、38.2%の市場シェアを獲得している。

車販売台数 Top 10 メーカー(2023 年 1~4 月)

【表 2】中国における新エネルギー車販売台数 Top 10 メーカー(2023 年 1~4 月)
(出典:中国自動車流通協会データをもとに作成)

また、上位10位のメーカーのうち、Teslaや上汽大衆汽車などの海外メーカー、合弁会社メーカーを除き、ほとんどが中国メーカーとなっている。中国では、新エネルギー車を巡って、国産の自動車メーカーを中心に競争が激化しており、ショッピングモールの中では複数の国産メーカーが店舗を構えていることが多い(写真1、2)。新エネルギー車市場の競争激化によって、価格も抑えられている。中国で人気の新エネルギー車の価格帯は主に2つある。1つは上汽通用五菱汽車製の格安小型EV車「宏光MINI EV」を代表とする10万人民元(約196万円)以下の価格帯で、もう1つはBYD製の「BYDドルフィン」、AION製の「AION S」「AION Y」などを代表とする10~20万人民元(196~392万円)の価格帯である。特に、「宏光MINI EV」シリーズは格安の価格で人気を集めており、最も安価なモデルは2.98万元(約58万円)で購入が可能で、2023年には日本へ輸出予定とも報道されている[5]

【写真1】中国のショッピングモールにある国産EV車店舗①

【写真1】中国のショッピングモールにある国産EV車店舗①
(出典:筆者撮影)

【写真2】中国のショッピングモールにある国産EV車店舗②

【写真2】中国のショッピングモールにある国産EV車店舗②
(出典:筆者撮影)

【写真3】AITO問界M5 外観

【写真3】AITO問界M5 外観

【写真4】AITO問界M5 内観

【写真4】AITO問界M5 内観

自動車の充電と運転のインテリジェント化

前述のとおり、中国における新エネルギー車の発展に向けた国家戦略「新エネルギー車産業発展企画(2021-2035年)」では、「電動化、コネクテッド化、インテリジェント化」が新エネルギー車産業促進の3つの方向性として掲げられている。本節では、新エネルギー車の「インテリジェント化」について、充電のインテリジェント化と運転のインテリジェント化の動向を考察する。

充電のインテリジェント化

新エネルギー車の販売急増とともに、EV車の充電インフラの整備も進んでいる。中国充電聯盟が発表したデータによれば、2023年4月時点で、全国の充電インフラは609.2万台設置されており、うち公共充電スタンドが202.5万台、プライベート充電スタンドが406.7万台となっている。また、2023年1~4月に新規販売された新エネルギー車の台数と、新規設置された充電スタンドの数の比率は1:2.5であり、充電インフラの整備は新エネルギー車販売急増に対応できているといえる。

また、新エネルギー車メーカー各社は充電スタンドを設置するだけでなく、AIなどの技術を活用して充電のインテリジェント化を推進し、ユーザー体験の向上にも取り組んでいる。その一例が新エネルギー車メーカーのNIOだ。NIOは充電スタンドのほか、バッテリーを自動的に交換できるバッテリー交換ステーション(図3)や、充電車などをアプリで呼び出して充電をしてもらえるサービスをユーザーに提供している。同社のバッテリー交換ステーションには13~21個のバッテリーが配置され、239個のセンサーやLiDAR、カメラなどが搭載されている。ユーザーが車のバッテリーを交換する際には、ステーションの前にある駐車スタートエリアに車を止めて、車内のモニターを操作することで、車は自動運転でステーション内に入り、5分程度でバッテリーが自動的に交換される。あわせて、バッテリー交換中に、画像認識技術を用いてバッテリーの状態についても確認を行い、状態が悪く品質的に問題のあるバッテリーを流通体系から排除し、常に最適な状態のバッテリーが交換されるサイクルを確保している。

【図3】NIOが設置したバッテリー交換ステーション

【図3】NIOが設置したバッテリー交換ステーション
(出典:NIO HP)

さらに、同社は独自のパワー・クラウドソリューション「NIO Power」を活用してユーザーに最適な充電プランを提供している。「NIO Power」では、車、バッテリー、バッテリー交換ステーション、移動充電車、充電スタンドなどを接続し、リアルタイムにビッグデータを処理することで、電力の最適なリソース配分と消費予測ができる。ユーザーのバッテリーの残量や充電傾向、充電リソースの状況に基づき、「NIO Power」がスマートフォンアプリ上で最適な充電プランをリコメンドする(図4)。

【図4】NIOの充電プラン最適化サービス

【図4】NIOの充電プラン最適化サービス
(出典:NIO HP)

運転のインテリジェント化

中国工業・情報化部によれば、中国における自動運転支援システム搭載のスマート・コネクテッドカーの新車販売台数は2022年に700万台に達し、2021年に比べ45.6%増加した。これにより、スマート・コネクテッドカーの市場浸透率は2022年に34.9%となった。自動車のインテリジェント化が進展している中、自動車メーカーだけでなく、ICTソリューションベンダーも市場に参入している。

中国大手通信機器ベンダーHuawei(華為技術)は2023上海国際自動車工業展覧会開幕直前の4月16日に、最新の先進運転支援システム「HUAWEI ADS 2.0」をはじめとしたスマートカーソリューションシリーズをリリースした。「HUAWEI ADS 2.0」の主な特長として、LiDAR、ミリ波レーダー、カメラなどのマルチセンサーでのセンシングにより、転覆した車両、落下した段ボール、落石、倒れた樹木などの障害物を識別し、減速・停止ができる。さらに、道路トポロジー推理ネットワークの増強によって、道路、信号、標識などの識別が可能で、高精度の地図に頼らずに走行できる。また、同発表会では、「HUAWEI ADS 2.0」のスマート駐車機能も発表された。これは駐車スペースを360°自動検知することで、駐車可能なスペースへの自動駐車を可能とするものだ。縦列駐車や坂道駐車、前向き斜め駐車など160以上の駐車シーンに対応しており、駐車スペースの識別精度が96%、駐車成功率が95%という。特に狭い場所での駐車性能が向上しており、車幅の余裕が0.4m以上の場合はそのまま自動駐車が利用でき、0.4m以下の場合でもリモート駐車支援機能で対応できる。

こうした先進運転支援システムのほか、同社のスマートフォンなどの端末で使われている独自のオペレーティングシステム「HarmonyOS」の最新版が搭載されたスマートコックピットも発表された。車載のモニターはHuaweiのスマートフォンやパソコンと連携できる。また、大規模言語モデルAIに基づいた音声アシスタントなどの機能も提供されている(図5)。

【図5】Huawei ADS 2.0のスマート駐車機能

【図5】Huawei ADS 2.0のスマート駐車機能
(出典:Huawei「2023Huaweiスマートカーソリューション発表会」)

スマートカーソリューションを提供するだけでなく、Huaweiはさらに2021年に新エネルギー車メーカーのSERES(賽力斯)と連携し、スマートEV車のブランド「AITO問界」を立ち上げている。両社はHuaweiのスマートカーソリューション搭載のスマートEV車を共同設計し、ミドルサイズのSUVの「問界M5」(写真3、4)など3つのモデルをリリースしており、2023年5月時点で、問界シリーズを10万台量産したという[6]。前述の「HUAWEI ADS 2.0」も「問界M5」のハイエンドバージョンに搭載される。

おわりに

本稿では、中国における自動車のグリーン化とインテリジェント化について、新エネルギー車をはじめ、自動車への充電と運転におけるICT技術の活用などの動向を考察した。脱炭素の追い風もあり、中国の新エネルギー車の国内での販売が急増しているだけでなく、海外への輸出も拡大しており、既にBYDなど日本に参入しているプレイヤーもある。日本の自動車メーカーにとっては、EV車を巡って国内外の市場で競争が激しくなると予想され、中国の新エネルギー車メーカーの動向には今後も関心が集まるだろう。

また、中国では、通信機器ベンダーやプラットフォーマーなどの異業種のプレイヤーが、ICT技術を駆使してスマート・コネクテッドカーの市場に参入しており、従来の自動車メーカーと車を共同設計してブランドを立ち上げるなど、新しい協業モデルを実践している。ICTと自動車の融合は今後もさらなる進展が期待され、ダイナミックに変化し続ける中国のスマート・コネクテッドカーの市場には引き続き注目する必要がある。

[1] 中国自動車工業協会統計データ

[2] 一般財団法人日本自動車工業会統計データ

[3] 中国工業・情報化部「新能源汽車生産企業及産品準入管理規定」(2017年1月6日に公表、2020年7月24日改定)https://www.gov.cn/xinwen/2020-08/19/content_5535780.htm

[4] 中国国務院「新能源汽車産業発展規劃(2021-2035年)」(2020年11月2日公表)https://www.gov.cn/zhengce/content/2020-11/02/content_5556716.htm

[5] 日本経済新聞電子版「中国の格安EVが日本市場を調査 巡回介護車などに用途」(2022年10月25日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ184 CA0Y2A011C2000000/

[6] AITO「“问界速度”!华为深度赋能,共同跑赢“智能化下半场”」(2023年5月29日)https://mp.weixin.qq.com/s/FMcynPAVqQ7KqaraG27hnA

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