2023.11.29 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

AIと会話する日

Gerd Altmann from Pixabay

前回、AIがインターネットにもたらす負の影響について考察したが、今回は、近い未来の社会に大きな影響を及ぼすと思われるAIの新たなアプリケーションと将来について、考察してみたい。
昨年来、華々しくスポットライトを浴び急速に世の中に浸透した生成AIであるが、一時のブームは若干沈静化した感もある。当初は、これは便利だ、業務効率化につながる、と多くの企業が飛びついたものの、いざ実際に使おうとすると、情報漏洩などのセキュリティの問題や、著作権の問題、そして、常に完全な正しい答えを出してくれるわけではないなどの課題が理解されてきて、結局、利用する側に相当のコストとリテラシーが求められるという認識が広がった。それでも、働き手不足が解消しない中その解決策の切り札の一つとして、活用しない選択肢はないのは明らかで、企業においては着実に利用が拡大している。

AI利用に関する様々な課題に対して、大企業を中心に、情報漏洩の心配もなく使い勝手の良いものを目指し自社の独自モデルを構築する動きも活発化している。また、独自モデルを構築しないまでも、ChatGPTのような商用サービスを活用して、業務効率化だけでなく、新たなサービス開発や業務プロセス改善を行う企業が増加するにつれ、企業へのAI導入支援を行う企業も増えている。急速に進む企業のDXにおいて、AIが大きな役割を果たしつつあるのは間違いないだろう。
ただ、新たな課題として、市場で取り合いとなっているAI技術者や、構築運用にかかるコストの問題をどう解決していくか、学習や利用に必要な大量のITリソースや電力が地球環境にやさしくないのではないか、といった点も指摘されており、これらを乗り越えられるだけのメリットを追求していくことが重要だろう。

AI自体の進化も著しい。企業での利用が広まったChatGPTは、Microsoftからのバックアップもあり、バージョンアップや新しい機能を次々と追加し可能性を広げている。今年6月には、「関数呼び出し機能」が追加され技術者の間で話題となった。これは、ChatGPTの機能を、外部のツールやAPIとより信頼度を上げて接続するためのもので、これにより各企業が持つ独自システムやデータと連携しやすくなり、活用の幅が広がると思われる。OpenAIは、具体的に以下の3点を利用例として挙げている。①外部ツールを呼び出してユーザの質問に答える、より高度な機能を備えたチャットボットの作成、②自然言語からのAPIコールやデータベースクエリへの変換、③テキスト情報からの構造化データの抽出。ChatGPTのようなLLMをベースとした生成AIは、その特性から間違った情報を生成することを完全に排除するのは難しいが、既に特定の機能を持つ様々なツールをAIと連携させることで、実用性が一気に高まることが期待される。7月には、さらにカスタムインストラクションという機能が追加された。これは、事前にChatGPTに対して、常に利用する前提条件(情報)や回答時の出力形式などを設定しておくことができる機能で、業務で日常的に利用するユーザーにとっては非常に便利だ。当初は有料ユーザー向けの機能だったが、現在は無料ユーザーも利用ができるようになっている。

一方で、一般の消費者はどうだろうか。確かに、調べものをしたり、文章の翻訳や推敲をしたり、という場面では便利で、趣味で絵やアニメを描く人にも便利なツールだが、日常的にPCやスマートフォンを使ってAIを活用するというシーンは限られるだろう。インターネットで買い物をする際にお勧め商品が表示されたり、企業に対して問い合わせをする際にチャットボットが回答したりなど、企業が提供する様々なサービスの裏でAIは機能しているが、それを実感する機会は限定的と言える。その理由の一つがインターフェースにある。スマートフォンやPCを使う場面はますます増えてはいるものの、スマートフォンでアクセスできないサービスもあるうえ、あまり使いこなしていない人も一定数いるからだ。

しかし、一般の消費者でもAIを格段に便利に利用できる可能性のあるサービスが始まろうとしている。今年9月Amazonは、自社が提供しているクラウドベースの音声アシスタントサービスであるAlexaをアップグレードして、より自然な会話によるコミュニケーションによって、接続された様々な機器やサービスの利用ができる大規模言語モデルを導入することを発表した。スマートスピーカーは、日本での普及率はまだ10%前後とかなり低いが、欧米では比較的高く、特に米国では3分の1を超えるとされている。公開されたデモ版のビデオを見ると、問いかけに対してごく自然に人と会話を交わしているように返答している。これまでのように、わかりにくい言いまわしをすると理解しないようなこともなく、話し手の好みなども記憶したうえで会話を進めている。さらに、他の生成AIのようにただ質問に答えるだけではなく、会話を通じて接続された機器やサービスを制御してくれる。実は、Alexaでは既にChatGPTの言語モデルに接続できるスキル(利用できるサービス)がいくつか公開されており、音声で生成AIとの対話を体験することができる。ちょっと難しいことを聞くと“わかりません、ごめんなさい”と言われてしまう通常の音声アシスタントに比べるとかなり賢いのだが、最新の情報は反映されておらず、機器の制御も全くできない。音声アシスタントサービスの競合であるGoogleも、現時点では生成AIのサービスをスマートスピーカー経由で利用することはできない。ということで、今回のAmazonのアップグレードが実施されれば、既に利用されている身近な機器で、音声という原始的なインターフェースを使って、アンビエントコンピューティングが一気に広がる世界が提供されることになる。

この機能は、最初に提供される英語でもまだサービス開始されておらず(本稿執筆の11月初旬時点)、日本語でのサービスはさらに先になると思われる。それは、これまで必要でなかった様々な安全装置が必要になるからだろう。Alexaは実際に多くのデバイスに接続されているだけに、AIが誤った動作をしないように入念に準備せねばならないはずだ。また、あまりに自然な対話となるため、利用者に感情的、精神的な不都合が生じないように、相手はあくまでAIであり人間ではないということを定期的にリマインドする必要がある。

現在の音声アシスタントサービスでもAI技術は活用されているが、LLMをベースにした対話型の生成AIが直接組み込まれることによるインパクトは大きいと考える。さらに、AI関連各社は、AGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)の開発にしのぎを削っている。人間の知的作業を完全に代替することができるAGIが本当に開発できるかどうかはまだわからないが、実現すれば社会に大きな変革をもたらすのは間違いないだろう。

一方で、こうした急速な変化を、社会がどう受容していくのか、そして、どう規制していくのか、という議論も活発化している。ゆっくりと議論をしていては進化のスピードに追い付いていけなくなるため、各国政府も優先度を上げて対応している。AI覇権争いの先頭にいる米国は、10月30日に「AIの安心、安全で信頼できる開発と利用に関する大統領令」を発令し、安全性や信頼性、セキュリティ保護の取り組みや義務と合わせ、政府としてAI開発の発展を加速するための方策も推進することを示し、数多くの具体的な取り組みの実施を包括的かつ網羅的に期限を明確にして指示している。一方で、多国間で協調しAIの安全性を確保しながら開発を推進していこうと、11月1日にはAI安全サミットが英国で開催され、米国、日本、EUなどの西側諸国だけでなく、中国や、中東、アフリカの29カ国・地域による共同宣言も発表された。

AI研究の出発点と言われる1956年のダートマス会議から67年、AIは今後さらに発展のスピードを上げ一層の注目を浴びると同時に、社会にとって不可欠な存在になっていくだろう。人間が開発した知能に人間が振り回されることにならないよう賢くコントロールしながら、世界が直面する様々な困難を克服するためにAIを有効に活用していく日が目前に来ている。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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