世界の街角から:ゾンビ映画、お好きですか? ~タイのリゾート地クラビでアメリカ映画撮影
「ゾンビ映画の海外ロケやるから、タイに来ない?」
こんな誘いが、ハリウッド俳優のアイアン・ジーリング[1](写真1右)から届いた。2003年7月の初来日の際、「アイアン・ジーリング プレミアム・トークショー」[2]で彼の相手役(MC)としてご一緒させて頂いて以降も交流は続いているのだが、アメリカ映画の撮影に合流できる機会は滅多にあるものでもなく、ファン冥利につきるこの誘いに即答したのは言うまでもない(実際には別作品の東京ロケに続いて2度目ではあるのだが……)。
筆者がタイを訪れたのは2018年12月。当時も本コーナーへの執筆依頼はあったが、アメリカでは引き続き制作や編集が続いており、映画のリリースまでは情報公開できないことから、断わらざるを得なかった。今回は、当時の興奮を思い出しながらタイのリゾート地クラビ(県)での様子をお届けする。
油断は禁物、ビーチの紫外線量は30%増
誘われるがままに向かったタイ南部のリゾート地クラビへは、東京から首都バンコクまで飛行機で5時間、タイの国内線に乗り継いで1時間半。タイ観光案内サイトによると、「クラビは、切り立つ石灰岩の岩壁と熱帯のジャングルに抱かれた秘境のビーチリゾート。(中略)沖合に点在する130以上の島々のダイナミックな景観も美しく、それらの島々をわたるアイランド・ホッピングもクラビの楽しみのひとつ。さらにカヌー、シュノーケリング、ダイビングなどの(中略)さまざまなアクティビティも魅力」[3]とのことで、特に欧米からの観光客に人気のビーチリゾートだ。執筆にあたり改めて調べたところ、ベストシーズンは11月〜3月(乾季)、4月〜5月(暑期)で、筆者が訪れた12月は乾季だったようだ。
天気予報で日中の暑さは想像できたが、砂浜や水面の照り返しで紫外線量が増加することを失念していた。前日は曇が厚く外にいても過ごしやすい1日だったことからすっかり油断してしまい、日の出から日の入りまで1日中ずっとビーチにいた撮影初日、足には日焼け止めを塗っていなかった。すると正午を回る頃には赤くなり始め(写真2)、監督からは日焼け止めクリームを渡され、現地スタッフからはアロエジェルと冷えたタオルを渡され、出番以外はテントの下にいるよう促されるほど、足全体に酷い日焼けをしてしまった。翌朝ベッドから足を下ろし、立ち上がって1歩前に足を出そうにも、足裏を床につけるたびに太腿の筋肉が皮膚を刺激し、歩くのが困難なほどだった。この日はパンツを履くと触れるたび擦れて痛むため、レギンスを捲り上げてなんとか耐え忍んだ(写真3)。
タイ料理といえばパクチー(ではなかった)
旅先での楽しみといえば、食事だ。パパイヤのサラダ、エビ炒飯やパイナップル炒飯、ガパオ、パッタイ(写真5)、カニと卵のカレー炒め、もちろんグリーンカレーもあり、どれもお馴染みの味だ。しかし、何か足りない。パクチーが乗ってないのだ。日本ではパクチーを追加注文したり、パクチーだけのサラダがあったりするが、実はタイではパクチーは添え物の扱いで、食べるのも少量なのだそうだ。どの写真を見返しても、確かにその姿は見当たらなかった。
クラビ初日は、夕食から撮影チームと合流した。滞在していたアオナン地区にはレストランも多く軒を連ねているが、向かった先で渡されたメニューはインドカレー中心のものだった。撮影チームは1カ月前からタイに滞在していたため、異なる味が恋しくなるのも当然だ。ピザを食べた夜もあった。ホテルの朝食ではトーストや卵料理も食べられるだろうが、撮影に向けてホテルを出るのは日の出前。現場のケータリング(写真6〜8)では家庭料理のようなものや、洋風メニューも提供されていた。タイ料理レストランでは見かけないような、家庭風の食事を楽しめたのは逆に良かった。
高波に乗ってゾンビが襲ってくる映画の撮影ウラ側
シャークネードのスタッフが再タッグ
冒頭にも書いたとおり、クラビでの映画撮影に声をかけてくれたのは本作の主演・脚本を務めたアイアン・ジーリングだ。人気サメ映画『シャークネード』シリーズ[4]の監督アンソニー・C・フェランテ、作家のサンダー・レヴィンと再タッグを組むということで、同映画のファンとしても期待が高まった。ゾンビ映画とだけ聞いて向かったが、現地で聞かされたのは、「海底に封印されていたゾンビが謎の青い光で解き放たれ、高波に乗って襲来する」というプロットだけだった。タイトルは決定していたが、情報解禁前なのかインスタグラムなどでは原題『Zombie Tidal Wave』[5]の頭文字から「#ZTW」というタグで共有されていた。また、ネタバレとなるようなビジュアルの投稿は避けるよう強く言われていた。
現地ではタイのプロダクションが現場を切り盛りしていた。エキストラとして集まった人には自分以外では欧米系の人も多く、助監督が伝えた演出をタイのチームが具体的に指導してくれたりしていた。桟橋での撮影では地上と船上の二班に分かれたり、ドローンを使った空撮なども行われたりした(写真10〜12)。
渾身のゾンビ演技
撮影現場である生鮮市場に向かう車内で、「今日はゾンビになるよ!」とアイアンに告げられた。初日はソンビから逃げる人間だったが、襲われてゾンビ化してしまったのだなと思った。メイクでゾンビに変身していく過程は面白かった。仕上げ直後の姿はショッキング過ぎるため本誌への掲載は控えるが、ゾンビメイクでセットに戻ろうと通りを歩いていたら歩行者が驚いていた。ゾンビとはいえ走って追いかけるシーンもあり、前日の日焼けの痛みに耐えながらゾンビ演技をやり切った(写真13~15)。
カメラ前での演技は大袈裟過ぎるくらいが丁度いい
撮影現場ではアイアンの友人ということで参加していたこともあり、前日の人間役でも二日目のゾンビ役でも、エキストラの中では前方に立たされたり、先頭を走らされたりと、割と目立つ位置でカメラに収まることが多かった。助監督の演技指導を受けて、「悲鳴を上げながら後退りして逃げる女性」という役割も頂いた。かなり大袈裟に動いたつもりだったが、劇場[6]で見たところ、もっと派手にやればよかったと反省した。ちなみに帰国後、エキストラとしての誓約書にサインをして提出した。
羽田空港でのトラブルがタイの空港で回収されたハナシ
さて、以上がクラビで過ごしたすべてではないのだが、最後にタイに到着した際のエピソードを書いて終わりたいと思う。
今回、クラビ空港までは日本航空を利用したのだが、スワンナプーム国際空港に到着し飛行機を降りると、係員が筆者の名前を書いた看板を持って立っていた。何かあったのだろうか? 不安げに声をかけると、日本航空の地上職員からの依頼で、筆者を国内線ターミナルの搭乗手続きカウンターまでアテンドしてくれるという(写真17)。
実は、スワンナプーム国際空港で国内便に乗り継ぐ場合、通常なら預け手荷物は最終目的地で受け取ることになるのだが、羽田空港での搭乗手続き時、それができないというエラー表示が出てしまう、と職員らが頭を抱えていた。搭乗案内時間ギリギリまで粘らせて欲しいとのことで、お願いすることにしたものの、システム担当者やスワンナプーム国際空港に問い合わせても解決できず、タイ入国時に一旦トランクを受け取ることになった。結局、出発時間が迫っていたこともあり職員専用のセキュリティゲートを抜け、搭乗口へ急ぐことになった、という出来事が出発前にあったのだ。国際線ターミナルで預け手荷物を受け取る羽目になった筆者を心配して、日本航空が係員を手配してくれたのだろう。確かに初めての空港だし、単一の空港ターミナルビルとしては世界一の広さとのことで、非常に心強いアテンドだった。こんなケアまでしてくれるの? と驚いたので、旅の思い出として記しておきたい。
なお、本コラムは、本作品の総合責任者でもあるアイアン・ジーリング本人に許可を得て執筆させて頂いた。
<クラビ滞在中の日程と主な撮影シーン>
Day1 クラビ到着 タイマッサージを堪能
Day2 撮影オフ アイランドホッピングなど
Day3 撮影 パンビーチにて
(ソンビが海から上陸。逃げ惑う市民、戦う主人公)
Day4 撮影 マハーラート生鮮市場にて
(ゾンビ化した市民から逃げたり、戦うキャストら)
Day5 撮影 アオナンパオ桟橋にて
(ゾンビを一網打尽にすべく罠にかける)
Day6 撮影 アオナンパオ桟橋にて
(クライマックスシーン)
夜、筆者帰国
[1] テレビ『ビバリーヒルズ高校白書/青春白書』シリーズ(1990年〜2000年)でスティーブ・サンダース役を演じた。日本ではNHK・NHK教育テレビ(現在のETV)・NHK BSで放送。また映画『シャークネード』シリーズ(2013年〜2018年)ではチェーンソーを武器に、巨大な竜巻とともに襲ってくるサメと戦うフィン・シェパード役でも知られる。
[2] 2003年8月10日、ケーブルテレビのLaLa TVにて放映
[3] https://www.thailandtravel.or.jp/areainfo/krabi/
[4] 「アメリカ・サイファイチャンネルでの放映時には、驚異の387,000ツイートを記録! 最凶のサメたちが飛び、喰らい、舞い上がる…、アサイラム社が放つ前代未聞のモンスター・パニック!!」(DVD発売元 アルバトロスHPより引用)
[5] 2019年8月17日 Syfyチャンネルにて米国で放送、邦題は『ゾンビ津波』。2021年6月4日DVD発売、レンタル開始(販売元:トランスフォーマー)、各動画配信サービスにて視聴可能。
[6] 『未体験ゾーンの映画たち2021』ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田にて上映。
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