シェアリングエコノミーによる関係人口拡大の効果

前回の記事(本誌2024年6月号「シェアリングエコノミーによる地域課題解決」)ではシェアリングエコノミーが様々な地域課題解決に貢献することを述べたが、今回はその中で関係人口の拡大を取り上げる。
総務省によれば、「『関係人口』とは、移住した『定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉」[1]であり、二拠点居住者、他拠点居住者、居住はしていなくても定期的に地域を訪れる人等が含まれる。さらに、直接地域を訪れなくても、定期的にふるさと納税、クラウドファンディング、地場産品等の購入、特定の地域の仕事の請け負い、情報発信、オンラインサービス活用等を行う人も含まれる。
なぜ、関係人口拡大が重要かというと、その背景には移住者拡大の難しさがある。少子高齢化が進む日本では、地方の持続的な発展を目指し、東京一極集中の解消・地方への移住を進める取り組みがなされてきたが、地方への移住は様々なハードルがあり、なかなか進んでいないのが現状である。そこで、自治体は関係人口の拡大に注力するようになってきている。政府もこれを支援しており、国土交通省は移住者だけではなく関係人口の拡大も進めるため、2024年1月に「移住・二地域居住等の促進に向けた対応の方向性等をとりまとめ」[2]を公表した。
本稿では、まず関係人口拡大に貢献するシェアサービスにはどのようなものがあるのかを説明した上で、弊社が実施した調査結果を示しながら、関係人口拡大への貢献効果や、シェアサービスユーザーが得られるメリットについて述べる。
関係人口増加に貢献するシェアサービス
関係人口増加に貢献するシェアサービス(以下、「関係人口関連シェアサービス」)を表1に示した。
スペースのシェアのうち、他拠点居住サービスには、民家等をシェアしてもらう民泊サービスのAirbnbや、一定料金で日本全国の登録宿泊施設をシェアしてどこにでも宿泊できるADDress等がある。これらのサービスは宿泊施設の家主・管理者や地域住民との交流が魅力であり、地域の人々と仲良くなって定期的に特定地域を訪問するユーザーが多いため、関係人口拡大につながる。
ワーケーションサービスには、全国のワークプレイスをシェアして利用できるTeamplaceや、閑散期のホテルをシェアして利用できるOtell等がある。ワーケーションで気に入った地域で定期的にワーケーションを行う人が増えることで関係人口拡大につながる。
スキルのシェアのうち、仕事体験サービスには、地方の人手不足の農業・ホテル等を訪れて仕事を手伝う(労働スキルをシェアする)ことで地方の仕事や暮らしを体験して地方の人との出会い・交流のチャンスが得られるおてつたびやTimeeトラベルがある。SAGOJOも同様の仕組みであるが、記事執筆、SNSでの情報発信、写真撮影等、労働というよりは専門スキルをシェアする案件が多い。セカンドキャリア塾も地域の人手不足の企業に対してスキルをシェアする点は同じであるが、40~50代のインターンシップとなっており、リモートで仕事をする等の特徴がある。これらを活用することで地域の仕事に魅力を感じた人が関係人口になることはよくあり、さらに移住につながる場合もある。また、移住先を探す目的で使われるケースもある。
暮らし体験サービスには、好きなことや趣味を体験させてもらえる(体験スキルをシェアしてもらえる)aini、SHARE BASE Matchingがある。ミライステラスは棚田をシェアすることに特化しており、農業体験・自然体験ができるサービスである。地域での体験に魅力を感じた人が定期的に訪れるようになることで関係人口拡大につながる。
お金のシェアのクラウドファンディングは、地域の特産品販売やサービス提供に対して目標金額が設定され、購入したい人がお金をシェアして目標金額に到達した場合に購入できるサービスである。特定地域の企業等を応援することができる。気に入った特産品やサービスを定期的に購入する人が増えることで関係人口拡大につながる。
シェアサービスによる関係人口拡大の効果
関係人口関連シェアサービスの利用者に対してアンケートを行い、サービス利用後の移住意向について質問したところ、図1の回答となった。「具体的に移住計画を考えるようになった」という回答割合は、多拠点居住サービス利用者で3割以上、仕事体験サービスと暮らし体験サービスの利用者で2割以上となっている。シェアサービス利用によって移住が促進されたと言えるだろう。「いつか移住してみたいと感じた」という回答も合わせると、クラウドファンディング以外の4サービス利用者の回答割合が5割を超えており、移住意向が向上したことが分かる。
自治体が関係人口を拡大するための施策としてシェアサービスを活用する事例は多数存在している。例えば、新潟県佐渡市は株式会社アドレスと連携協定を結び[3]、多拠点居住サービスADDressを活用して関係・交流人口の拡大による地域活性化を進めている。奈良県天理市は株式会社おてつたびと連携し、滞在型観光を伴う短期的、季節的な労働力の確保と、関係人口の創出・地域経済の活性化を図っている[4]。調査結果は、このような取り組みの有効性を示していると言える。
シェアサービスによる関係人口拡大がもたらす経済効果
自治体の移住促進施策の多くが大きな成果を上げていない一方で、シェアサービスを活用した関係人口増加施策の効果は得られているようである。そこで、移住促進施策とシェアサービスを活用した関係人口増加施策のどちらが有効なのかについて、地域への経済効果という観点で分析を行った。
シェアサービスを活用した関係人口増加施策によって関係人口が増加した場合、関係人口となった人は当該地域を訪れて宿泊、移動、製品・サービス購入等、様々な経済活動を行うことで、地元企業に経済効果を与える[5]。ただし、移住者に比べると地域に滞在する期間は少ないので、1人当たりの経済効果は移住者より小さい。半面、前述のようにシェアサービスを活用すれば、移住者に比べるとはるかに容易に関係人口を増加させることができる。
一方、移住促進施策によって移住者が増加した場合、当該地域で居住、移動、製品・サービス購入等、様々な経済活動を行うことで、地元企業に経済効果を与える。移住者は、1人当たりの経済効果が関係人口よりも大きいが、増加させるのが難しい。様々な施策を行っても、実際に移住者が増えないという事例も多く存在している。
つまり、関係人口増加施策は1人当たりの経済効果が小さいものの増加人数が多く、移住促進施策は1人当たりの経済効果が大きいものの増加人数が少ないということである。では、1人当たりの経済効果と人数をかけあわせた経済効果は2施策のどちらが大きいのだろうか。それを明らかにするために、公表情報・ヒアリング情報をもとに、代表的な事例や過去の事例から1人当たりの経済効果と滞在日数の平均値等を計算し、2施策の経済効果を推計した結果が図2である。経済効果は、関係人口・移住者が当該地域で行う支出だけでなく、売上が増加した企業から他企業へ与える経済波及効果まで含めて算出した[6]。

【図2】移住促進施策とシェアサービスを活用した関係人口増加施策の経済効果の比較
(出典:情報通信総合研究所
「シェアリングエコノミー関連調査2024年度調査結果(シェアサービス×関係人口)」
https://sharing-economy.jp/ja/wp-content/uploads/2024/01/6c3c2b8d94c2c42c7f532f8bd01adaa3.pdf)
シェアサービスユーザーが得られるメリット
シェアサービスを活用することで自治体が関係人口を拡大できる一方、シェアサービスを利用した人は前述のようなサービス自体の便益(他拠点居住、仕事体験等)を得られるが、さらに他のメリットも考えられる。
関係人口関連シェアサービス利用者については、地域の仕事や暮らしを体験することや地域の人々と交流すること等によって①キャリアに対してプラスの影響がある②幸福度が向上する③国籍、年齢、宗教、文化的背景、性(LGBT)、居住地等について多様な人との交流が増える④地域活動やボランティアの仲間が増える、というメリットがあるといわれている。そこで、アンケート調査で確認した。以下の図3は関係人口関連シェアサービス利用者のキャリア、幸福度、多様性、地域活動等に関するアンケート回答結果をまとめたものである。

【図3】シェアサービス利用者のキャリア、幸福度、多様性、地域活動等に関するアンケート回答結果
(出典:情報通信総合研究所
「シェアリングエコノミー関連調査2024年度調査結果(シェアサービス×関係人口)」
https://sharing-economy.jp/ja/wp-content/uploads/2024/01/6c3c2b8d94c2c42c7f532f8bd01adaa3.pdfを
もとに作成)
今後のキャリアに対してプラスの影響があったかどうかの設問に対して「かなり影響があった」「やや影響があった」というポジティブな回答は合わせて5割を超えており、過半数の人がメリットを感じたことが分かる。同様に、幸福度が高まったか、多様な人との交流が増えたかについての設問に対するポジティブな回答も5割を超え、地域活動やボランティアの仲間が増えたかについてのポジティブな回答は4割を超えている。4つの設問のいずれかでポジティブな回答をした人は64%となっており、関係人口関連シェアサービス利用者は上記に示したとおりのメリットを得られると言えるだろう。
まとめ
以上では、シェアリングエコノミーが関係人口拡大に有効であること、自治体にとっては移住促進施策よりもシェアサービスを活用した関係人口増加施策の方が経済効果は大きいこと、関係人口関連シェアサービス利用者にはキャリアへのプラスの影響等のメリットがあることを述べた。なお、シェアリングエコノミーの経済効果や2032年度までの市場規模の予測値が2023年シェアリングエコノミー調査報告書(https://www.icr.co.jp/ publicity/4799.html)で確認可能である。興味のある方はぜひ購入されたい。
[1] 総務省「関係人口とは」https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/about/index.html#:~:text=%E3%80%8C%E9%96%A2%E4%BF%82%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81,%E4%BA%BA%E3%80%85%E3%82%92%E6%8C%87%E3%81%99%E8%A8%80%E8%91%89%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
[2] 国土交通省「移住・二地域居住等の促進に向けた対応の方向性等をとりまとめ」(2024年1月9日)https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001716851.pdf
[3] 佐渡市「佐渡市と株式会社アドレスが連携協定を締結しました」(2021年11月2日)https://www.city.sado.niigata.jp/site/ijyu/31757.html
[4] 株式会社おてつたび「おてつたび、奈良県天理市と連携し『関係人口』創出へ」(2022年10月21日)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000074. 000036175.html
[5] ここではクラウドファンディング等、地域を訪れない人の経済効果は分析の対象外としている。
[6] まず、関係人口または移住者の増加数(人)×滞在日数(日/年)×1日当たりの支出額(円/日)で1年間の支出金額(製品・サービス別)を計算した。これが地域の企業の売上増加額となる。次に、売上が増加する企業の原材料購入等を通じた他企業への波及効果を産業連関分析における「均衡算出高モデル」を用いて推計した。
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。InfoComニューズレターを他サイト等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。また、引用される場合は必ず出所の明示をお願いいたします。
調査研究、委託調査等に関するご相談やICRのサービスに関するご質問などお気軽にお問い合わせください。
ICTに関わる調査研究のご依頼はこちら関連キーワード
山本 悠介の記事
関連記事
-
ICT経済は財生産、サービスともに4期連続でプラス成長【InfoCom ICT経済アップデート】
- ICT経済
- 経済動向
-
「AIエージェント」の活用方法を考える
- AI・人工知能
- ICR Insight
- WTR No431(2025年3月号)
- 生成AI
-
テレワークは「終わった」のか、「これから」なのか ~「ハイブリッドワーク」が最終解とも言えそうにない理由~
- WTR No431(2025年3月号)
- テレワーク
- 働き方改革
- 日本
- 米国
-
ロボットCA固有の問題〜季刊連載第4回 ~
- AI・人工知能
- WTR No431(2025年3月号)
- メタバース
- 仮想空間
-
世界の街角から:関ヶ原の地で「つながり」を想う
- WTR No431(2025年3月号)
- 世界の街角から
- 日本
ICT経済 年月別レポート一覧
ランキング
- 最新
- 週間
- 月間
- 総合