MWCラスベガス2024:速報レポート
MWCラスベガス2024 概況
2024年10月8日から10日にかけて、米国ラスベガスで米国最大級のモバイル関連カンファレンス「MWCラスベガス2024」が開催された(写真1)。MWCラスベガスは、スペインで毎年2月末に開催されているMWCバルセロナとは違い、主に米国モバイル業界における最新戦略や業界トレンドが発表されるカンファレンスとなっている。規模に関しては、MWCバルセロナと比較して小さいが、最新のモバイル技術やサービスを展開する米国の現状やトレンドを理解する上では非常に重要なカンファレンスである。筆者は、約10年前からほぼ毎年参加しており、本カンファレンスを通じて米国市場の変化を見てきた。本稿では、MWCラスベガス2024の速報レポートとして、同カンファレンスでの注目すべき動向を報告する。なお、報告は概要までにとどめ、同カンファレンスの詳細は次号以降に紹介したい。
テーマは「キャリアのマネタイズ機会」
MWCラスベガスでは、毎年カンファレンスのテーマが設定されている。昨年2023年のテーマは「Velocity(加速)」であり、モバイル市場の成長促進やAIなどの最新技術の導入を加速させるという意味が込められていた。一方、今年のテーマは「5G for Enterprise IT(エンタープライズITのための5G)」とされ、昨年の「Velocity」のような躍動感あふれるテーマとは異なり、より具体的な方向性が示された。
このテーマ設定の背景には、コンシューマー市場におけるARPU(1契約当たりの平均収益)の減少がある。米国無線通信業協会(CTIA)のデータによれば、2012年から2022年にかけてデバイス収益を含まないARPUは29%減少しており、1GB当たりの収益も同期間で98%減少している(図1)。このような市場環境の中、本カンファレンスではキャリア各社が中心となり、法人市場での5G活用を通じた新たな収益機会の創出が主要な議題となった。
国内外で開催されている他のカンファレンスと同様に、MWCラスベガスでも展示や各社のキーパーソンが発表・議論を行うセッションが提供されている。今年のテーマである「5G for Enterprise IT」に沿って、展示やセッションでは法人市場での5Gの活用に焦点が当てられており、最新技術やビジネスモデルが数多く紹介されていた。ここからは、本カンファレンスの展示会場の様子を報告したい。
展示会場の様子:存在感が増したT-Mobile
MWCラスベガス2024の展示会場は、MWCバルセロナと比較すると小規模だ。この規模は例年どおりで、歩いて見て回るだけなら1時間もあれば十分である。しかし、規模は小さいながらも、米国市場で活躍している企業の動向が一目で分かるのが特徴だ。
展示会場を見渡すと、昨年に続き大きな存在感を放っていたのがT-Mobileのブースだ(写真2)。2019年頃まで同カンファレンスでは、Verizonが展示会場の一等地にブースを構えていたが、昨年からはT-Mobileがその位置を占めている(写真3)。なお、2018年のT-Mobileブースはトラック1台だった(写真4)。
これは、米国市場においてT-MobileがVerizonやAT&Tと肩を並べるまでに成長したことを物語っていると言える。T-Mobileは過去10年で劇的な変革を遂げた企業だ。かつて市場シェア第4位だった同社は、2013年に開始した「Uncarrier戦略」と、2018年のSprintとの合併により急速にシェアを拡大してきた。特にUncarrier戦略では、2年契約の縛りを廃止するなど、従来のキャリアビジネスの常識を覆し、顧客中心のマーケティング戦略を展開して急成長の礎を築いた。近年の5G戦略においても、競合のVerizonがミリ波による5Gを展開する一方で、T-Mobileはミッドバンドを中心にカバレッジの確保を進め、「つながる5G」として市場での地位を確立している。また、つながるだけでなく高品質な5Gの提供を目指し、世界的にも早い段階で5G SA(スタンドアローン)の導入を実現した。MWCラスベガス2024では、この5G SAを活用した法人向けのネットワークスライシング・ソリューションが発表され、T-Mobileが法人市場に対しても新たな技術で挑戦している姿勢を印象付けた。
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法人市場強化:「キャリアのためのAI」から「キャリアによるAI提供」
キャリアソリューションを求める国家安全保障関連機関
MWCラスベガスは小規模だが有意義なカンファレンス
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中村 邦明 (Kuniaki Nakamura)の記事
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