2019.12.26 ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

働き方改革を支援する働き方の見える化ツールの動向

生産性の向上の必要性

安倍総理大臣は、IMF(国際通貨基金)のゲオルギエバ専務理事との2019年11月の会談では、日本経済を中長期的に成長させるためには、働き方改革など少子高齢化の進展に合わせた構造改革が必要だという認識で一致した1

また、経団連の中西会長は、2020年の春闘について「生産性を上げるような働き方改革について議論したい」と述べ、賃上げに加え、生産性向上につながる働き方についても労使間で議論すべきだという考えを提示した。同会長は2020年の春闘について「日本経済の一番の課題は生産性だ。単に労働時間を縮小するのではなく、生産性を上げるような『働き方改革』や、従業員のやる気を高める方策について2020年春の労働組合との交渉で是非議論していきたい」と述べ、労使交渉では生産性の向上に向けた働き方についても議論すべきだという考えを示した。2

政府、企業ともに、生産性向上に向けた働き方改革の必要性を認識している点で一致している。

人手不足感の高まり

日銀「日銀短観」の雇用人員判断3(全産業)の推移をみると、「不足」と回答する割合(以下「人手不足割合」という)が2013年半ばから増加し続けており、大企業から中小企業まで人手不足感が増している(図1)

帝国データバンクでは雇用の過不足状況に関する調査4を毎月実施しており、2019年10月時点に関する調査では、人手不足割合は正社員、非正社員ともに減少傾向にある。ただし、不足割合の上位10業種をみると、そのうち正社員では9業種、非正社員では8業種が1年前(2018年10月)より増加しており、全体の傾向とは異なる動きとなっている。上位10業種としては、「建設」「運輸・倉庫」や、「旅館・ホテル」「娯楽サービス」などの接客業といった労働集約型の業種が上位となっている。

働き方改革は、人口減少下において、現在の人手不足の解消や、生産性向上の必要性を背景に最重要課題となっている。

日銀短観「雇用人員判断」の推移

【図1】日銀短観「雇用人員判断」の推移
(出典:日本銀行「日銀短観」5)

働き方改革関連法の動向

働き方改革関連法では、残業時間の限度を原則月45時間とする罰則付き上限規制や、年5日間の年次有給休暇の確実な取得などが定められ、2019年4月から順次施行されており、中小企業を対象にした残業規制は2020年4月から開始される。

本稿では、働く人一人一人、チーム全体、会社の生産性の向上を支援する働き方の見える化サービス、残業抑制機能を提供するサービスについて紹介する。加えて、これらのツールを提供する企業に対してのインタビューをもとに、当該市場の可能性を展望する。

働き方の見える化サービス

働き方の見える化を行う主なサービスは表1のとおりである。

働き方の見える化の主なサービス

働き方の見える化の主なサービス

【表1】働き方の見える化の主なサービス
(出典:公表情報より、作成)

ICTベンダーにおいては、Panasonicが「しごとコンパス」、NECが「働き方見える化サービス」、富士通エフサスが「TIME CREATOR」を提供している。これらは、クラウドベースまたはオンプレミスでの業務内容の見える化、作業時間、勤務時間の見える化を行うツールで、パソコン上のファイルやアプリケーションの操作ログ情報を取得して、ファイルやアプリケーションの操作にどの程度時間をかけているのか、集計してみることができる。

「しごとコンパス」の導入事例では、業務の無駄がどこにあるのかが分かることで、具体的な業務改善策を、働く人それぞれが考えるようになったり、テレワーク実施時に業務エビデンスが残るので、お互い安心して仕事を任せたり、遂行したり、モバイルワークの隙間時間で何の仕事をするのか考えるなど、時間に対する意識の高まりがあったりすることが言及されている。「TIME CREATOR」の導入事例では、時間外労働の申請・承認がない場合には18時半からパソコンへ警告画面の表示を行い、19時にシャットダウンされるようルール化し、平日20時以降は承認の有無にかかわらずパソコンを使用できない設定にすることにより、時間外労働の削減の推進を図ったことが紹介されている。

ハートコア社(本誌12月号参照)提供の米「CICERO」やMeeCap社の「MeeCap」は、業務内容の見える化、繰り返し業務の見える化を行い、その内容をもとにRPA導入の提案が行われている。「MeeCap」を販売しているのは日立システムで、同社はRPA、OCR、BPO(業務プロセスアウトソーシング)サービスを組み合わせて提案しており、業務改善を包括的に推進している。

また、NTT西日本は、「おまかせAI働き方みえ~る」をクラウドベースで提供しており、勤務実態、業務内容の見える化に加え、セキュリティリスクやIT資産管理の見える化機能も提供、幅広い機能を訴求している。

Skyの「Skysea」はIT資産管理ツールであるが、新機能として過重労働対策機能を追加してきている。勤怠/就業管理システム連携、残業管理、定期電源OFF等の機能で、残業抑制機能を付加している。日立ソリューションズの「長時間労働是正ソリューション」は、長時間労働是正機能に特化しており、時間外勤務状況の把握、時間外勤務や未申請等に対する各種アラートの通知や、PCの自動シャットダウン機能を提供している。

次に、働き方の見える化サービスを提供するPanasonic、NEC、富士通エフサスのご担当者にサービス提供の思い・狙いやユーザーの動向についてお伺いするという貴重な機会をいただいた。主な内容について紹介する。

Panasonic社へのインタビュー

「しごとコンパス」については、パナソニックコネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部マーケティングセンター営業企画部ビジネス企画課 福家良晃氏、同社同事業部マーケティングセンターマーケティング部マーケティング2課 西畑梨那氏、同社同事業部東アジア営業統括部法人営業1部ソリューション担当 本間千明氏にお話を伺った。

本サービス提供の思いについては「日本の人口減少という課題を捉えた上で、働く人一人一人の働き方をより良いものにしていく」とのことである。

サービス提供の経緯、狙いについては、「元々本サービスはPanasonic自社社員のために開発されたが、働き方改革が社会問題でもあるため、Panasonicと組んでいる企業など、外の企業にも使っていただき、お客様と共に働き方改革を推進したい」「松下幸之助が日本に初めて完全週休2日制を導入している。我々の思いは、少子化が進展する中で、一人一人の働き方を変えること。ツールありきではない。ツールの機能は、顧客企業の思いを受けて、変えていく」と、あくまで一人一人に気づきを与え、働き方を変えることを支援するツールであることに言及している。

具体的には、「体重計で体重を量ってダイエットするようなもの。働き方を見える化して、一人一人が自分の働き方を把握して、改善していき、PDCAサイクルをまわしていくことが重要。有効に時間を活用して、浮いた時間で家族と過ごす時間を増やしたり、自分の能力を高めるための時間をつくったりすることができる」と個人の気づきを大事にしている。そのため「残業抑止機能は提供していない。強制的なパソコンのシャットダウンは根本的な業務改善の解決にはならず、長い目で見たときに失敗する」と、あくまで働く人それぞれの業務をいかに変えていくのかという点に着目し、働く人個人に焦点をあてている。

ユーザー企業の反応については「引き合いは、2019年は2018年に比べ、大幅に増えている」とのことで、「『働き方改革推進室』を設置している企業、関連法案の施行を意識し労務管理を検討している企業が導入している」と、企業の働き方改革を推進する動きが、当該サービスへの関心を高めているという。その背景には2019年4月の「働き方改革法」施行がある。これにより、「残業時間の罰則付き上限規制」は大企業では2019年4月から実施されており、中小企業では20年4月に施行される。加えて、2020東京オリンピックもあり、テレワークを推進する方向にあることも後押しとなっている。「『しごとコンパス』はテレワークを行いやすくするからである」とテレワーク活用推進の風潮が「しごとコンパス」の導入の要因となっていると語る。

自社での導入経緯を踏まえ、「しごとコンパス」は導入する中で、子育てをしている人にとっては、これまで半休をとり、小学校の1時間の保護者会に参加していたものが、半休をとって午後すべて休まなくても、自宅で仕事をすることにより、これまでは業務時間としては失っていた時間を業務に使うことを可能にするなどのメリットを管理者に提供できるとする。

また、テレワークを実施する際には、テレワークの際に自分の働きを見える化することになり、上司、部下間の信頼感を確保できる点が良いと評価している。「テレワークをしている社員は、上司にさぼっていると思われたくないが、これを導入すればその懸念はなくなり、上司も安心してテレワークを承認できるという、上司部下双方がテレワークを安心して実施できる環境を提供している」と安定した仕事環境の提供に役立っていると語った。

「しごとコンパス」のコンセプトと導入メリット

「しごとコンパス」のコンセプトと導入メリット

【図2】「しごとコンパス」のコンセプトと導入メリット
(出典:Panasonicホームページより6)

NEC社へのインタビュー

「働き方見える化サービス」については、NECプラットフォームソリューション事業部プラットフォームサービス企画グループマネージャ浦田章一氏にお話を伺った。

サービス提供の経緯については「元々NECグループでテレワーク事業に取り組んできた。自社で、テレワークのパッケージを取り扱ってきたが、導入コストがかかるため、クラウド型サービスが検討され、現在の『働き方見える化サービス』が開発された」と自社での活用がサービス提供のきっかけとなり、クラウド型サービスにして提供しているとのことだ。

サービス提供の狙いについては、そもそも「パソコンとのセット販売を推進すること」であったが、「既にパソコンを利用しているユーザー企業も多く、本サービス単体での利用も多い」そうだ。

ユーザーの動向については、「『働き方改革法』施行を背景にした残業時間規制により、企業の残業時間管理の意識が高まっており、問い合わせが増えている。加えて、出産、育児により仕事を続けにくい女性に働き続けてもらうため、『テレワーク』を推進する企業が増加しており、企業がテレワークを行うために、その環境作りとして導入する場合もある」とのことで、残業時間規制が一つのきっかけになっていること、出産、育児により仕事を続けにくい女性に対して、テレワークを実施しやすい環境を作り、就業環境の向上に生かすことを目的にする導入が増加していると語る。

また、ユーザー企業の動向については「様々な業種が利用している。製造業であれば、経理や人事関連等総務部門や設計業務の担当が活用したり、社外企業との取引をパソコンで行う業務のある部署では、使われている」と、多様な業種や多様な部署での利用が進んでいるとのことだ。

NEC「働き方見える化サービス」のメリット

【図3】NEC「働き方見える化サービス」のメリット
(出典:NECホームページより7)

富士通エフサス社へのインタビュー

「TIME CREATOR」については、富士通エフサス ビジネス企画推進本部 デジタルソリューション企画統括部 トータルサービス推進部 シニアマネージャー小林由幸氏にお話を伺った。

サービス提供の経緯について「10年前から、別名称で、残業抑止機能を持ったサービスの提供を開始していた。当時はそれほど話題にはならなかったが、2016年頃から、建設業、広告代理店等の長時間労働とそれがもたらす弊害が社会問題となり、長時間労働是正に対する社会的な関心が高まった。それらの動向を受けて、パソコンの残業抑制機能が注目され始めた」と、社会的に長時間労働是正への関心が高まったことが追い風になったと振り返る。

富士通エフサス(従業員約6,600人)においても2016年からTIME CREATOR(当時「IDリンク・マネージャー」)の残業抑止機能を全社導入し、残業時は業務内容を申請・承認することを義務化することから働き方改革に取り組み始めた。また、2018年には本社部門、営業部門、CE部門、販推部門など複数拠点に散らばっていた首都圏のオフィスを大崎に集結させ、その際にフリーアドレス、ペーパーレス、シンクライアント専用端末導入などを進め、働き方改革を積極的に自社実践しているとのことだ。

お客様の反応については「2019年になってからの展示会対応では、残業時間抑止に加えて“テレワークへの取り組み”に関心が高まっている。そこで、課題解決の一つとしてパソコン業務の可視化が簡単にできるTIME CREATORに興味を持っていただけている」とテレワークへの関心の高りとともに注目が集まっていると語る。

導入のメリットについては「残業抑止については働きすぎ防止や、出張時の残業の把握や隠れ残業抑止においても有効だ。パソコンのログオン・オフ情報もしっかりと記録できる」と人事、労務管理において必要な手段となっているとのこと。

ユーザー企業の動向については「最近は製造業にもニーズがあると感じている。工場だけではなく、管理部門(資材管理、設計等)の業務を効率化することが求められているからだ」と、製造業の生産性向上に向けた必要性の高まりがサービスへの関心につながっているとする。

小林氏が語った最も重要なポイントは「今一番良いと思っている点は、「TIME CREATOR」がコミュニケーションツール、マネジメントツールにもなることだ。上司と部下は、評価面談の際に業務を振り返る場合が多い。多くの部下がいる場合、どの業務にどの程度の時間を使っているのか、何が忙しくて残業が増えているのか、課題が何なのかは、見えにくい部分がある。このツールで、日々の業務を見える化、残業時には業務内容を申請承認することにより、職場でのコミュニケーションへつなげ、お互いに信頼感をもって、仕事に向き合えると思っている」と職場内のコミュニケーションを促進する手段となる点を強調していた。

富士通エフサス「TIME CREATOR」の特徴

【図4】富士通エフサス「TIME CREATOR」の特徴
(出典:富士通エフサスホームページより8)

ユーザーのメリットに関する各社共通の認識

働き方の見える化を行うサービスを活用することは、個人、企業にとって、下記のメリットがある。

個人にとって

自分の働き方を見直し、判断して、業務を振り返り、時間の有効活用を行うことにつながる。

企業にとって

テレワーク支援とそれに伴う働きやすい職場環境の支援を行える。

これらにより、多様な働き化を促し、これまで就業継続が難しかった女性(育児など)の就業を継続することにもつながる。

加えて、働く人一人一人、グループ、部署の生産性の向上をもたらし、浮いた時間をより創造的な時間や、自身の付加価値を高めるために考える時間、自分の能力を高めるための時間に費やすことを可能にする。

課題

課題としては「残業時間が見える化すると困ると思うブラック企業は一定数いると感じている」との言葉もあり、仕事の見える化により、自社にとって良くないと感じる企業も一定数存在していることが指摘されており、そのような企業の意識改革が求められる。

まとめ

働き方の見える化ツールの導入がきっかけとなり、テレワークなどの柔軟な働き方を行いやすくなり、テレワークを行う人が増えたり、これまで就業継続が難しかった女性が仕事を続けることができたりするなど、働いている人個人個人が仕事の進め方を見直して、時間の使い方を改善していくことができる。

職場の業務に関するコミュニケーションが円滑化し、無駄な仕事や仕事の割り振りの偏りを軽減することができれば、働き方自体が少しずつ変わり、生産性の向上や、働く人個人の満足度が向上することが期待される。

見える化ツールの導入による今後の働き方改革の動向とその効果(個人の満足度向上や生産性向上、会社全体の生産性の向上)は引き続き、注目される。

  1. 日本経済新聞「安倍首相『構造改革を推進』IMF専務理事と会談」(2019年11月25日)
  2. 経団連タイムズ「中西会長記者会見」(2019年11月28日No.3433)https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2019/1128_05.html
  3. 「過剰」(回答社数構成比)-「不足」(回答社数構成比)
  4. 調査期間は2019年10月17日~31日、調査対象は全国2万3,731社で、有効回答企業数は1万113(回答率42.6%)。雇用の過不足状況に関する調査は2006年5月より毎月実施。https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p191105.pdf
  5. https://www.boj.or.jp/statistics/tk/gaiyo/2016/tka1909.pdf
  6. https://panasonic.biz/cns/pc/workstyle/shigoto_compass.html
  7. https://jpn.nec.com/products/bizpc/promotion/hatarakikata/index.html
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