2020年9月2日掲載 ITトレンド全般 ICR研究員の眼

幻のMWC2020、変わる世界の通信業界(2) 5Gは1年停滞?



新型コロナウイルス感染対策のため、開催中止となった「MWC2020」をネタに行った鼎談の第2回目。

<出席者プロフィール>

クロサカタツヤ 氏
株式会社企 代表取締役、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授
通信・放送セクターでの経営戦略、事業開発を中心としたコンサルティング、官公庁プロジェクトの支援等、幅広く手掛ける他、総務省等の政府委員を務める。
近著『5Gでビジネスはどう変わるのか』(2019年)

堀越 功 氏
日経BP 日経クロステック 先端技術 副編集長 
メディアの立場から、世界の情報通信を世の中に伝え続けてきた、屈指の存在。
日経クロステック(オンラインメディア)「堀越功の次世代通信羅針盤」にて最新動向を連載中。

岸田重行
株式会社情報通信総合研究所 ICTリサーチ・コンサルティング部 上席主任研究員
情報通信に特化したリサーチ・コンサルティングの立場から、長く世界のモバイル通信を中心にフォロー。MWCには、1998年より(その前身「GSM World Congress」に)参加。講演、寄稿、出演等多数。 (研究員紹介)

 

「幻のMWC2020、変わる世界の通信業界(1)」のつづき。

4. 5Gは1年停滞?

岸田バルセロナの街中の広告、あれがサムスン一色で「うわぁ。こんなにもサムスン広告出すんだぁ。」みたいになったのが、気が付くと「うわぁ、何か広告1回消えたー」と。で、次からは「ファーウェイの広告だぁ!」っていう感じになっていた印象ですよね。

堀越ずっと行っていると、そういうベンチマークが出来るんですけれど、1回MWCがキャンセルになってしまうと、勢いを経年的にチェック出来ないのがやっぱり残念だなあというのが1つありますね。

岸田企業の活動自体はある訳ですけど、このイベントに向けて各企業であったりとか、スピーカーで登壇される方であったりとか、そのセッションでどんなことが話されたかとか、何か‘ここ’が、1つの毎年の起点になってトレンドが作られていくし、確認も出来るし、という、業界としては大事なイベントだった訳ですけど、まあ今回それが無いので…。

クロサカこれも仮説ですけども、モバイルインダストリー全体が、少なくとも1年間の停滞を余儀なくされるんじゃないかなと思います。まずMWC文脈で言うと、これも、開催されなかったから完全に想像の話ですけれども、今年は凄く重要な年だったはずだったと思うんですよ。

株式会社企 代表取締役 クロサカタツヤ 氏(中)と、 日経クロステック副編集長 堀越 功 氏(左) ICR 上席主任研究員 岸田重行(右)

株式会社企 代表取締役 クロサカタツヤ 氏(中)、
日経クロステック副編集長 堀越 功 氏(左)、
ICR 上席主任研究員 岸田重行(右)

 

堀越そうですね。

クロサカ何故ならば、SAのソリューションが全面的に出て、関係する全てのベンダーさんやSIer/NIerが出してくる瞬間だったはずだと思うんですよ。実際NECさんも、5GCを出すと。で、それがなくなったのと、あと、MWCとは直接関係ないかも知れないですけど、3GPPのリリース16がどうやら遅れそうだと。

岸田ニュースに出てましたよね。

クロサカええ。「マジですか!?」っていう(註:リリース16は対談後の2020年7月に確定しました)。

堀越3GPPもオンラインでしかミーティングができなという話が出ていました。

岸田リリース16こそ真のというか、フルの。

クロサカリアル5Gスペック、なので、

岸田今はまあ見切り発車5Gですから、スペックで言うと。

堀越結局、3GPPで標準化されて、経験則的に2年後に商用製品が出るというパターンがありますね。とすると今年のMWCは、2022年末かあたりでフル5G化っていう重要なタイミングのベンチマークの時だったと思います。

岸田2023年か2024年になっちゃうんでしょう。キャリアでも早いところは入れちゃうんでしょうけどね。

クロサカうん。

岸田SKテレコムが、この間、今の商用ネットワーク、5Gのノンスタンドアロンのところに5Gコアのソフトウェアを入れました、とリリースしていまして、結局もうスタンドアロンを動かしたい訳ですよね。キャリアもベンダーも、動かしてみたいんですよね。あれを動かさないと、ネットワーク・スライシングも、どうなるかわからんし。

クロサカレイテンシーもちゃんとして来ませんしね。

岸田そうなんですよね。色んなものがあそこに行かないと、5Gらしさが多分出ない。となると、2020年は5Gスタートで良いんですけど、5Gらしいものってその、やっぱり技術的には2022年なのか23年なのか24年なのか、に入るのかどうか。試験はずっとすると思うんですけど、商用には簡単にのらないかも知れず。

堀越うんうん。

岸田キャリアさんは早くのせたいんでしょうけど、まだ足らないですよねぇ。何か、練習が足らないというか。

クロサカそう考えるとだから、今年もう、まあ、近年割と皆ギリギリでやるようになってきていますけど、今年が2022年の早い時期に導入するギリギリのタイミングだったかなっていう。

岸田そうですね。

5. MWCでなく、各社のプライベートショー中心になったら

クロサカ今年ソリューションが出て、「買うの?」「買わないの?」って、まさしくMWCでディールの話をして。

岸田2周目なんですよね?5Gの。

堀越そうですね。今年のMWCは2周目の、重要な真の5Gのタイミングだったんですよね。

クロサカはい。で、今回MWCでの商談の機会が無くなって、今後はプライベートショーも含めた相対(あいたい)になります。でもMWCって、交渉は勿論全部クローズですけど、横のつながりで話が出来る訳じゃないですか。

岸田そうですね。

クロサカあの会場で売り手と買い手がはっきり分かれている以上、買い手の方は、世界中のオペレーター同士が、「それでそちらはいくらで買ったの?」とか、そういう話をする訳ですよ。

 

堀越うん。

クロサカそれが、プライベートショーになってプライベート・ディールになっちゃうと出来なくなるので、買い手が疑心暗鬼になると思うんですよね。

岸田立ち振る舞いが変わってしまいますよね。

堀越MWC開催期間の1週間という短い間に、世界の10万の人が集まって、凝縮して会場を練り歩くわけです。ファーウェイの様子を見てきて、次はエリクソンへって真っ直ぐホール1からホール2へ移動出来ますけど、そういう事が出来て、同じ会場で比べられたって事が重要だったわけですよね。

株式会社企 代表取締役 クロサカタツヤ 氏(左)と、 日経クロステック副編集長 堀越 功 氏(右)

クロサカタツヤ 氏(左)、 堀越 功 氏(右)

 

岸田比べる事が目的じゃなくても、行けば比べてしまうというか感じてしまうので。

クロサカそうなんですよね。

堀越テレコム業界は標準化に則っているので、、割と時間軸上も似たような所で製品が出てくるわけです。そこで提案の軸っていうのも割と明確化出来ているような感じがしていたんですけど。それが本当にプライベートショーの流れになるのか?というのが、1番の懸念点ですよね。

岸田ええ。今年無くなっちゃって、まあ連綿と、30年近く続いてきたイベントが、途中ちょっと一回停滞しかかった時期もありましたけれど、どんどん拡張してきて、スタートアップも取り込んで、で「いよいよ5Gへ」とまで来た時に、ちょっと何か1回一息ついてしまって。

堀越うん。

クロサカまあお祭りなので、夢から覚めてしまうと、理由が分からずに参加していた人達は離れてしまうと思うんですよね。で、正直そういう出展者もいる訳じゃないですか。

岸田それはいますね。

クロサカええ。あの、見る側からすると面白いんだけども、『Youは何しにバルセロナへ?』って人達ですよね。

岸田そうですね。

堀越特に端末側、サムスンとかですよね。まあ別にバルセロナでイベントをやらなくてもいいや、っていうのも気づいてしまっているんですよね。今回もそうだし、前回もそうでしたっけ。

岸田端末のお披露目でいうと、サムスンUnpackedですよね、自分が最初あの会場に入ったのは、2010年前後くらいかな?

堀越そうですね。スマホを盛り上げる時代は良かった。

岸田で、日曜日に各端末メーカー各社の発表イベントがわぁっと来るので、

堀越うん、うん。

岸田何時に何処、何時に何処って。

クロサカやりましたねえ。

岸田土曜から現地に入って、日曜に並んで、入って、始まって、その後皆駆け足で「次があるから」って、サーっといなくなる、みたいな。「ああ、あそこバスが出るぞ!」、「サムスンから次ソニー行くぞ!」みたいな、ああいう時代は、あの時をやっぱり象徴していて、だから、それで言うと今は端末の時代ではなくてネットワークの側に、業界の中のイノベーションだったり、普及だったりが来ているんでしょうけど。そういうのも多分、波というか、循環するものだと思うと、今後どこかのタイミングでまた、デバイス側に注目が集まることも来るんだろうし。

クロサカ今の岸田さんのお話を受けると、結局5G時代ってどういうデバイスなの?っていう話があるんですよ。やっぱりこの10年間が、MWCっていうイベントにとっても、インダストリーにとっても、その周辺にいる人達にとっても、一番効率が良かったのは、端末がスマホだったからですよ。

クロサカタツヤ 氏

岸田ですよね。

クロサカで、正に今のお話の通り、サムスンの発表だ、時間が来たソニーに行くぞ、次はファーウェイだ、という風に、ユーザーサイド側はユーザーサイド側で、さっきのお互いに顔を見ながらと同じように「あそこどうだった?」「あそこの端末どうだった?」というのを、一斉に比較出来たっていう。

岸田ええ。

クロサカ比較することに意味があった訳ですよね?でも5Gが、まあスマホはワンオブゼムになって行くのだとすると、別にスマホはワンオブゼムなんだから、プライベートショーで見ればいいか。

堀越うん。

クロサカそんな風になって行く訳ですよね。で、じゃあ、新たな『絶対的な存在』、つまりポスト・スマホですけど、それが5Gの時代に見つかるかと言うと、少なくともリリース16以降待ちなんじゃないかな。そして16以降で志向されている世界は、何か1つの端末であるとかユースケースに絞っているものでは全くない。

岸田全然ないですからね。展示会で言うと、端末に注目が集まって集客した時代があって、で最近はネットワークになっていますけど、その間は、OTTプレーヤー、今もうあんまりそう言わなくて、プラットフォーマーという言い方しますけど、

堀越はは。

岸田当時OTTプレーヤーの人達が、ある意味、表というか影というか主役をやっていて。

クロサカそうです、アンチヒーロー的なとこも含めてですよね。

岸田ですよね。一時期は「アップルが影の主役だ」みたいに言われた時もあったんでしょうけど、その主役のその移り変わりみたいな話はこれまでもありながら、で、今回1回切れてしまいました、と。

堀越うん。

岸田で、まあでも5G自体は来年も再来年もこれから、本番を迎えていくという中で、何か1回切れてしまうっていうのが、途切れて、気が付いて、夢から覚めて、MWCが無いって、この業界でやっていた人は初の体験なんですよね?

堀越『無い』は初めてですね。

堀越 功 氏

岸田で、MWCの展示と直接触れ合ってない人の方が、多分業界の中では多いはずなんです。絶対数が多い。

クロサカそうですね。

岸田とは言いながら、トレンドセッター的な役割の、例えば会社の中で、そういう役割の人であったりだとか、もしくは、企業間の存在感みたいな話の中で言うと、やっぱりこれがないと、その1つの基準というか、物差しというか。「これが物差し」という言い方は少し正しくないのかも知れないけど、ここを目指して皆やって来て、ここで展示会をし、商談をし、あれやこれやモノを言い、で、帰って来てから、ああだったこうだったと話し、それを咀嚼して、で「じゃあ、この後どうする?」みたいな話をやっていくというのを、毎年こう、繰り返しやってきた業界なので。

堀越うん。

岸田行ってみてこうだったああだった、という順番の1個が欠けるので、一連の営みにならないんですよね、今年は。

クロサカそうですねぇ。

堀越しかもホント、去年が5G元年だとすると、今年は本当に普及という大事な年でもあったわけです。

岸田これから、グッとほしいですよね?

堀越ポスト・スマホであれ、この産業インフラであれ、広げていく、いろいろ考えるきっかけになる起点になるはずだったのかが、1回飛んでしまうっていうのは、結構、痛いですよね。

クロサカ痛い。

岸田技術的に何が注目だとか、これこれがっていうのは、毎年毎年行ってみて、予想を良い意味で裏切られる、というのがこれまで続いてきたわけですけど、

堀越うん。

岸田多分自分の予想が上手いか下手かでいうと、下手なんですけど、そう言う裏切られる場面が今回はない訳ですよ。

堀越例えばエリクソンは、産業向けのユースケースを毎年提案していますが、毎年行っていると、今年はこのユースケースはなくなった、ということを確認できるわけです。

クロサカうん、うん。

堀越このユースケースは諦めた、このユースケースはゴールに近い、というベンチマークは割と1年で見れた。それが1回空いちゃうんですよねぇ…。

クロサカそうなんですよ。例えて言うなら、社会的に重大な経済イベントが起きた、でも翌日の日経新聞は休刊日だった、みたいな話でもあるんです。

堀越ははははは。

岸田いやぁ何か、その、毎年毎年ある事なので、「来年もあるんでしょ?」がありきで言ってますけど、

クロサカうん。

岸田その、毎年とか1年おきにやっているとか、4年ごとにオリンピックとか、何かこう、そこって分かっているんだったら、それを目指してロードマップを皆さん作るし、それに営みを合わせてくる訳ですけど、合わせてきたらいきなり「無くなっちゃいました」と言うのは、うーん。まあ、今も色んなイベントがあのコロナウィルスの関係で、無くなっちゃったとか、規模大小はあるでしょけど、やっぱり影響は、その瞬間ももちろんですけど、その後にこうジワジワと来ちゃって、元に戻せないんですよね。

クロサカそうなんですよねぇ。

岸田穴埋めるも何も、時間的に戻れないので。

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「幻のMWC2020、変わる世界の通信業界(3)」に続く。

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