NTTドコモの農業ICTへの取り組み (3) 本格普及を見据えた女性生産者ネットワークとの交流

本誌2016年5月号と8月号では、NTTドコモの農業ICTの取り組みとして、事業の立ち上げから軌道に乗せるまでのサービス企画や体制整備、実証実験や普及の取り組みについて紹介してきた。あらゆるモノをネットにつなぐIoTを活用する動きは農業をはじめとする第1次産業においても成功事例が出てきている。国も普及を後押しする政策であるため、今後もICTを活用する動きは広がる方向性だろう。このような動きをふまえ、本稿では今後のさらなる普及展開を見据えたNTTドコモの動きを紹介する。
NTTドコモのアグリガール(後述)と全国の女性生産者のネットワークである「田舎のヒロインズ[1]」、そして農林水産省が推進する「農業女子プロジェクト」(後述)のメンバーが全国から集まり、農村の魅力や可能性を国内外に向けてアピ ールするイベント「レストランバス[2]」が2017年6月15日に開催され、筆者も参加した。バスに乗車してアスパラガス農園や南阿蘇を代表する白川水源を巡り、そこで収穫された生産物を使ったお料理を、風景を見ながら楽しむというものである。農園を見て体験して、そして食事として味わう。このレストランバスは農業への生産者側の思いと食べる喜びを同時に感じることができる企画だ。そして、このツアーの最後には参加者全員で「農村を大切にします宣言」を行った。ここで宣言された内容は次のとおりである。
農業女子プロジェクトとは
農業女子プロジェクトは、農林水産省が農業に従事する女性をサポートする活動である。具体的には女性生産者がその存在を発信しつつ、彼女たちがもつ知恵やアイデアと、企業がもつ技術やサービスとが連携して新しいビジネスモデルを創り出していくというもので、農林水産省は女性生産者と企業をマッチングする役割を担っている。2013年に開始した活動は、今では全国に589名(2017年4月12日現在)の農業女子メンバーと28社の企業、高校と大学の2校が参加するまでにその規模が拡大している。また、新たな製品やサービスとして既に形となっているものも多い。例えばワコールでは農作業をサポートする下着を発表したほか、シャープでは泥汚れの悩みを解消する洗濯機を発表するなどしている。農業女子プロジェクトの活動はこのような個別プロジェクトにとどまることなく、各主体間の交流などにも広がっているという。
農業女子プロジェクトにおけるアグリガールの活動
NTTドコモは農業女子プロジェクトに参画している。NTTドコモでは農業ICTを推進する営業担当者約200名のうち女性の有志社員によるアグリガールが立ち上がっていることは、これまでの筆者のレポートで紹介させていただいたとおりだ。アグリガールは日ごろの営業活動に加えて、農業女子プロジェクトと連携した活動も行っている。これまでの活動は、NTTドコモが提供する製品やサービスについて東北や九州などで意見交換会を実施したことのほか、生産者に試用してもらい、使い勝手に対する意見や改善点のフィードバックを受けるといったことである。
冒頭に紹介した「田舎のヒロインズ」との交流は、この農業女子プロジェクトの取り組みがきっかけで始まったという。6月のレストランバスのイベントでは、「田舎のヒロインズ」とアグリガールとの意見交換会も行われた。「田舎のヒロインズ」のメンバーは、いわば農業ICTの潜在ユーザーである。NTTドコモの担当者にとっては、一旦ICTから離れて農業生産者の生産に対するこだわりや消費者に対する思いなどを知り、意見を交換できる貴重な機会でもある。実際に話し合われた内容は、お互いの取り組みや農業に限らず多岐にわたっていたようだ。実は「田舎のヒロインズ」もNTTドコモも同じエリアから参加するという、お見合いのような仕掛けもあった。そのため、この交流をきっかけにそれぞれの地域においてICTによる課題解決の可能性等を検討することができる。そうやって交流が発展していくことで、より現場ニーズに合ったサービス開発や普及展開につながっていくと考えられる。このレストランバスでの交流をきっかけに、各地でコラボレーションによる取り組みが生まれていくことが期待される。
[1] 「NPO法人 田舎のヒロインズ」は、全国約160名の会員で構成される女性農業者のネットワーク。女性農業者のネットワークというと、地域を基盤にして6次産業化などに取り組む事例が多いが、「田舎のヒロインズ」はそれだけではなく、農家が食べ物も風景もエネルギーも次世代も育てる社会を目指し、情報交換・発信も行っている。具体的には、2年に1回の全国集会開催や、農業研修の受け入れ、人材育成のための勉強会開催やオンライン講座などの企画・実施など。また、資金調達は事業の趣旨に賛同する人々から出資金を集めるなど、これまでの慣習にとらわれない活動を行っている。
[2] レストランバスは、「農業女子プロジェクト」のメンバーであり「田舎のヒロインズ」理事長の大津愛梨さんが、南阿蘇の創造的復興を目指すために、食分野での産業復興支援を行う一般社団法人東の食の会や、レストランバスを活用した地方の魅力創出を行うWILLER株式会社などと一緒にプロデュースした。クラウドファンディングにより100万円超の資金を調達して、2017年4月から6月まで熊本県阿蘇地域において運行された。
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井上 恵美(退職)の記事
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