2019年10月30日掲載 ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

ベルリンでシェア電動キックボード「Lime」に乗る ~日本国内展開への可能性と課題


(c)Elvert Barnes https://www.flickr.com/people/perspective/

ドイツの首都であるベルリンでは、ブランデンブルク門やポツダム広場などがある街の中心部でも電動キックボードをよく見かける。平坦なベルリンでは自転車が多く走っているが、負けず劣らず電動キックボードもよく走っている。その多くが、スマートフォン(スマホ)を用いて使いたい時だけ利用するシェア型のものである。

中でも最も目にするのは、グリーンのボディカラーが特徴の「Lime」だ。【写真1】

歩道上に整然と並ぶLime

【写真1】歩道上に整然と並ぶLime。
ハンドルの左手に読み取り用のQRコードがある。
(出典:文中掲載の写真は、
一部記載のあるものを除きすべて筆者撮影)

日本で公道を走るキックボードにお目にかかることはないが、今後、新たなモビリティとして注目されていくのではないだろうか。筆者が出張で滞在したベルリンの最終日に、気になるLimeに乗ってみた。

なお電動キックボードの動向に関しては、本誌2018年10月号の「急成長する電動スクーター市場と未来のモビリティの始まり」で弊社の主任研究員前川が考察をしている。一方、日本国内では公道での走行に規制があるため実際に体験することは難しい。本稿では、実体験に基づく国内展開への可能性と課題について考察してみたい。

ベルリン中で見かける電動キックボード

国内でもシェア自転車はよく見かけるようになったが、米国や欧州ではこれらを非常によく見かけるようになっている。電車で移動すると、駅のそばにはシェア自転車のサイクルポートがあり、中心駅では複数の事業者のサイクルポートが並んでいたりもする。ベルリンでも自転車は多く、自転車専用道もよく整備されている。

前述のとおり、ベルリンの市街地では、電動キックボードLimeが自転車に負けじと走っている。Limeはサイクルポートがなく、歩道に邪魔にならないよう置かれている。利用したければ、いつでも利用できるLimeが、歩けば2、3分ごとに見かけるレベルで歩道に置かれている。ベルリンでは地下鉄などの公共交通もかなり発達しているが、スイスイ街中を走るLimeを見ると便利そうに思えてならない。つい先ほど見かけたLimeに乗り始めて、好きな場所に乗り捨てできるのだとすると、これは今までにない究極のモビリティだと思えた。電気で走る電動キックボードはエコの視点からも魅力があり、マイカー所有率の低減を目指すスマートシティの取り組みと合わせ、MaaSの選択肢のひとつとしても注目されている。

電動キックボードを使い始める

Limeの乗り方は簡単だ。アプリをダウンロードし、必要な個人情報と決済用のカードを登録するだけで5分もかからずオンラインで会員登録が完了する(街中でLimeを見かけ立ち止まると、アプリをダウンロードするよう英語でLime本体に書かれているので、英語のわかる旅行者であれば、利用にスマホを用いるだろうことはすぐに予測できる(写真2))。

Lime本体に表示されたアプリの案内

【写真2】Lime本体に表示されたアプリの案内

ユーザー登録後は、街角で乗りたいと思ったLimeに付いている、QRコードをアプリでスキャンするとロックが解除されて利用開始になる。ベルリンでの利用料金は、初乗り料としてロック解除に1ユーロ、加えて1分あたり0.2ユーロ。10分利用した場合は3ユーロがアプリ経由で課金される。料金は都市ごとに設定されているようなので、詳細はLimeのWebサイトを確認してほしい。

アプリを立ち上げると、地図上にLimeの位置が、バッテリーの充電状況とともに表示される。アプリには「Reserve(予約)」ボタンがあり、Limeを他のユーザーに利用されないように、最大15分間自分用に予約しておくことができる。この予約中の時間は現時点では無課金のようである。また、アプリには「Ring」ボタンもあるが、これは恐らく、目的とするLimeの位置が現地で分からなかった場合に、Limeに音を発信させる機能のようだ(図1)。

Limeアプリで検索すると利用可能なLimeの位置や予約ボタンが表示される

【図1】Limeアプリで検索すると利用可能なLimeの位置や予約ボタンが表示される。
(出典:Lime)

スマホでGoogleマップを使い目的地を検索すると、目的地までの車や公共交通(バス・電車)、徒歩での所要時間が表示されるが、ベルリンではLimeでの見込み所要時間と料金も表示される。目的地まで、Limeを含めたどの交通手段を利用すべきかを容易に比較できるようになっている。Limeのロックを解除するにはGoogleマップからは操作できないため、Limeアプリを立ち上げる必要がある。しかし、移動のためにもはや紙の地図を広げず、スマホで地図アプリを起動して目的地を設定し、そのナビゲーションを頼りに移動する人々にとって、Limeは地下鉄やタクシーと並ぶ移動手段になり得るように見える。

キックボードに乗ったことがなくともLimeに乗るのは比較的容易だ。慣れるまでの数分ほどは少し慎重になるが、地面までの高さがなくすぐに足を降ろせるLimeは、自転車に乗れるのであればそれほど怖さもない。スピードさえ気を付ければ、子どもでも乗れそうだし、実際ベルリンでも若年層の利用者を多く見かけた。一方、スマホに不慣れな高齢者にとっては少し難易度が高いかもしれない。スマホの利用者層とマッチしたモビリティだと言えよう。

QRを読み込み、ロックを解除するとLimeを手で押して動き出せるようになる。ハンドルの右手には親指で操作するボタンがあり、これがアクセルだ。ブレーキは自転車や原付バイクのように両手ではなく左手側にだけ、引くと減速するおなじみのレバーが付いている。また、いきなりアクセルのボタンを押しても動き出さないよう安全面には配慮されている。ハンドルを握り、ボードの上に乗って、ボードを一蹴りし押し進めると、初めてアクセルが効くようになるといった具合だ。平坦な自転車道では最高で時速19kmと表示されていたので、20km程度は出るように設計されていると思われる。

自転車の多いベルリンでは自転車専用道がよく整備されており、電動キックボードは真っすぐ舗装された道を進むには、天候や季節が良ければ最高に気持ちの良い移動手段だ。

乗り終えてLimeを返却するのも非常に簡単だ。Limeを停めて、アプリに表示される「LOCK」ボタンを押すと、停車したLimeの写真を取るよう指示があるので撮影すると返却完了となる。これが、Limeを停めるのに危険な場所や停め方を選択していないことの証明になる。何より便利なのは、サイクルポートなどの駐輪スペースを気にしなくてよいということである。広めの場所に整然と停められる。買い物や観光などの用が済めば、LimeアプリやGoogleマップで近くのLimeを探し、そこからLimeに乗ってまた移動する。近くのLimeは街中や観光スポットであれば徒歩数分のところで見つかる。

乗って分かった電動キックボードの課題

ここまででLimeがいかに簡単で便利か、お分かり頂けたと思う。しかし、実際に乗ってみると、スペックだけでは見えなかった様々な問題点についてもよく分かるようになる。以下は、繁華街の地下鉄シュタットミッテ駅の出口から、約5km離れたベルリンの壁のあるイーストサイドギャラリーまで「Limeで」移動してみた所感だ。

1. 意外と高い

Googleマップでシュタットミッテからイーストサイドギャラリーへのルートを検索すると、車で9分、地下鉄を乗り継いで20分(片道2.8ユーロ)、タクシーだと9分で8~10ユーロと案内された。一方Limeでは17分で、最寄りのLimeまでは徒歩1分、料金は3~4ユーロだと表示された。地下鉄より少し高く、タクシーより安い料金設定のようだ。
しかし、実際には後述するいくつかの要因により時間は33分かかり、7.6ユーロが課金された(図2)。
なぜこれほど時間がかかったのだろうか。

Limeアプリで見た走行ルートと料金

【図2】Limeアプリで見た走行ルートと料金:4.7kmを33分で走行し、料金は7.6ユーロ。
(出典:Lime)

2.地図を見ながら運転ができない

Googleマップで表示される所要時間は、あくまで迷わず到着した場合の時間である。ところがLimeでは右手がアクセル、左手がブレーキという設定になっており両手は塞がり、スマホを取り付ける場所もないため正しいルートで移動できているのかを地図で確認する術がない。結果、行き慣れない道では、たびたび停止しスマホの地図で現在地を確認することになる。これが非常に不便である。

簡単に使える電動キックボードは観光客には打ってつけの交通手段だと思われるが、何度もルートを確認する手間がかかり、地図を見ている最中も利用分数はカウントされていくのには注意が必要だ。

また、その国の住人でなければ、信号機や標識などの交通ルールでも戸惑うことが多く、その点も自分で運転するLimeには難しさがある。

3.石畳などの凸凹や段差に弱い

実際に乗ってみて初めて分かるのは、その乗り心地である。Limeでは、空気を入れるエアータイヤではなく、重さに強いハードタイプのタイヤを使っているようだ。

ベルリンでは、アスファルトで舗装されたフラットな自転車専用道を走れることがほとんどであるが、移動中には見事な石畳の道もあり、凸凹や砂利道を抜ける時には、足だけでなく手や頭までが痺れるような振動をLimeから受けることになる。正直これは非常に堪えた。結局、最終目的地からの帰りはLimeを乗り捨てて地下鉄で帰ることにしたのだが、あまりにも振動のショックが大きく、移動にずいぶん疲労困憊してしまったのが大きかった。

4.事故の際の対処

何より困るのは、事故などのトラブルであろう。

なんと、筆者はこのベルリンでの1度の利用中に、Limeで信号待ちをしていた際に現地の自転車の女性と接触し、彼女が持っていたスマホが道路に落ちて割れてしまった。今回は現地で弁償し、後から旅行保険が適用になることが分かって安心したのだが、対人であったり、自分が怪我をしたりするようなことも起こり得るわけだ。Lime自体には保険が付いていないので、万が一のことも考慮して利用すべき乗り物だと言えよう。

ちなみに、Limeを実際に利用する前にはいくつかの注意事項がアプリに表示される。ヘルメットを着用すること、歩道ではなく自転車用道路を走ること、道路に整然と並べて返却すること、二人乗りをしないこと、などである。しかし、ベルリンでは電動キックボードのヘルメット着用義務はないようで、着用していない利用者が大半であった。当然のことながら、ヘルメットを義務付けた場合には、Limeの利便性が大きく低下するのは間違いない。

電動キックボードの国内展開の可能性

Limeは欧米の多くの都市に展開しており、ベルリン以外でも新たなモビリティとしての存在感を増している。ベルリンで開催された国際コンシューマー・エレクトロニクス展「IFA 2019」においても、5Gや8Kテレビと並んで電動キックボードが多く展示されていた(写真3)。それだけ世界では注目度の高いモビリティである。一方、アジアではシンガポールとソウルで展開するのみである。

電動キックボード

【写真3】IFAで展示された様々な
電動キックボード

シェア電動キックボードの事業性はどうであろうか。実は電動キックボード自体はそれほど高くなく数万円のものがネット経由で購入できる。自動車1台を購入する費用で、100台のキックボードが買えそうである。しかし、運用はかなり大変そうである。街中のLimeはフル充電で整然と並んでいるものが多いが、これはLimeの運営者が充電切れとなったり、雑に置かれたりしているLimeをトラックで回収し、どこかで充電をしてまた並べに来る、という作業を終日繰り返しているからだ。この運用の負担は大きく、これがLimeの「安くない」利用料に転嫁されていると考えられる。ここを省力化や無人化することができれば大きなビジネスとなることも期待できると考える。

現在、日本で電動キックボードを公道で乗ろうとすると、原動機付自転車(原付)の扱いになるようだ。つまり原付免許が必要になるほか、ヘルメットの着用や自賠責保険の加入はもちろん、キックボード自体にもナンバープレートのほか、ミラーや方向指示器、警音器の装着が義務となる可能性がある。原付は車道を走る規則であるため、ベルリンのように自転車用の道は通れない。二段階右折に至っては、外国人旅行者には極めてハードルが高いルールだ。だが、先述のとおり、観光客が短い距離を気軽に乗るには、電動キックボードは最高の乗り物である。今回、実際にLimeに乗ってみてシェア電動キックボードのスマートさと便利さに感銘を受け、一方でたくさんの問題点も実感した。スマートシティの議論と合わせ、新たなモビリティに関する法規制の見直しは今後進んでいくかもしれない。乗り心地や保険などの課題解決も合わせ、日本でも電動キックボードが広まっていくことをぜひ期待したいものである。

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