2020.3.30 5G/6G InfoCom T&S World Trend Report

世界における5G動向と6Gに向けた取り組み

5Gサービスの展開・6Gの議論開始

5Gは、2019年4月に米国・韓国でスマートフォン向けのサービスが開始され、GSMAのレポート(The Mobile Economy 2020)によると、24の市場で46の事業者が商用5Gサービスを提供している(2020年1月末時点)。2025年の世界における全モバイル接続の内、4Gはいまだ56%を占めるものの、5Gの割合は20%に達すると同レポートは予測している。

一方で、2030年頃に実用化が見込まれるBeyond 5G(6G)について世界各国で議論が開始されており、日本においても2020年1月に総務省が有識者会議を立ち上げたところである。2020年3月には「6G Wireless Summit」の第2回会合がオンラインで開催された。本稿では、世界の主要国における5G動向および6Gに向けた取り組みを概観する。

商用5Gサービス展開状況

【図1】商用5Gサービス展開状況
(出所:GSMA「The Mobile Economy 2020」)

5G動向

5Gの本格サービス開始から約1年が経過したが、ほとんどの国において、当面は4Gネットワークと連携した運用となるため、5Gならではの特長(超低遅延・多数同時接続)を活かしたユースケースの本格展開は5Gスタンドアローン(SA)の導入を待つ必要がある。また、各国では5G導入を機にデジタルデバイド解消を図る動きがあるが、5Gの電波特性等から稠密な基地局配置を要するため、事業者にとってはネットワーク展開コストの効率化および周波数の確保が課題となっている。主要国・地域における5Gの政策および展開状況は以下のとおりである。

米国

2018年10月の「5G FAST Plan」に基づいて、スモールセル設置審査の迅速化や5G向けの高帯域(ミリ波)周波数の開放(競売)等に取り組んでいる。VerizonおよびAT&Tは都市部など人口密集エリアへの5G展開にとどまっているが、T-Mobile USは2019年12月に低帯域周波数(600MHz)利用による5Gカバレッジ拡大(人口カバー率 約60%)を発表した。Verizonは2020年2月に5G対応アプリケーションの国際展開に向けてロンドンに5Gラボ&スタジオを開設し、AT&Tはミリ波に加え、2020年前半に低帯域周波数(850MHz)を利用した全国展開を計画している。

韓国

2019年4月に「5G Plus Strategy」を発表し、5Gネットワークを基盤とした10の中核産業と5つの中核サービス(デジタル医療、スマートシティ、自律走行車、スマートファクトリー、没入型コンテンツ)の育成に注力することで、2026年までに世界の5G市場の15%を占めることをめざしている。5G加入者数は順調に増加しているが、事業者は屋内における5Gカバレッジ・品質改善に取り組んでいる。SK Telecomは2020年上半期に5G SAサービスを開始する予定であり、他事業者も準備を進めている。

欧州

2016年10月の「5G Action Plan」に基づいて、2019年5月のスイス、英国を皮切りに、2020年末までに全EU加盟国での5Gサービス開始を目標としている。TelefonicaやVodafone等の欧州の事業者はOpen RAN(オープンな無線アクセスネットワーク)への取り組みを推進し、カバレッジの高密度化・拡大コストの削減をめざしている。英国は、5Gテストベッド・トライアルプログラム(2億ポンド、約264億円*[1])を通じて、各産業・ルーラル地域での5G活用によるユースケース実証に取り組んでいる。

中国

2019年11月に5G商用サービスを開始、「5G plus industrial internet」にて、5Gと産業用インターネットを促進し、2022年までに少なくとも20の典型的な産業アプリケーションシナリオを形成することで製造業のアップグレードを促進するとしている。2020年2月に5Gの屋内カバレッジ拡大のため、周波数を共用するライセンスを3事業者に付与した。報道によると、コロナウイルス対応のため、遠隔疾病診断等に5Gを活用しており、事業者に早期の5Gネットワーク展開を促しているという。

日本

総務省は、4事業者(NTTドコモ、KDDI/沖縄セルラー、ソフトバンク、楽天モバイル)より申請された5G特定基地局の開設計画を2019年4月に認定し、各社に5G用の周波数を割り当てた。2020年3月より、各社が順次5G商用サービスを開始する予定である。2020年度中に全都道府県での5Gサービスを開始、2024年度までに全国の約98%のメッシュ(10km四方)へ基地局を展開(4事業者の計画値合算)することで、都市部・地方部を問わず事業可能性のあるエリアをカバーする計画である。

6Gに向けた取り組み

6Gにおいては、5Gの各特長を高度化させるとともに、エネルギー効率の向上等が目標とされている(最高伝送速度:10Gbps⇒100Gbps、低遅延:1ミリ秒程度⇒1ミリ秒未満、多数同時接続:1㎢当たり100万台⇒1,000万台等)。国際電気通信連合(ITU)が2019年5月に公表したホワイトペーパー(Network 2030 Vision)では、6Gでクリティカルなアプリケーションにもワイヤレスが活用されるようになり、遠隔ホログラフィックプレゼンス、感覚通信(触覚、嗅覚、味覚)、デジタルツイン、自動運転、工場自動化等の実現が期待されている。主要国・地域における6Gに向けた取り組み状況は以下のとおりである。

米国

トランプ大統領の6G実現に向けた取り組み強化の意向を踏まえて、2019年3月15日に米国FCCは95GHz超の周波数を試験用に開放した。同日開催のNYU Wireless(Ted Rappaport教授)によるプレゼンテーションでは、6Gで実現可能性があるアプリケーションとして、ワイヤレス認知(ロボット制御等)、センシング(大気質検知等)、イメージング(セキュリティボディスキャン等)などが挙げられた。

韓国

 2019年1月に、LG ElectronicsがKAIST INSTITUTE(韓国科学技術院の研究機関)と「6G研究センター」の設立を発表した。また、Samsung Electronics は、2019年6月に6Gコア技術の開発のための研究センターを立ち上げた。2020年2月に開催された「6Gオープンシンポジウム2020」では、Samsung、LGおよびSK Telecom等が参加し、国際標準化の主導権を握ることが重要との認識で一致したという。韓国政府は6G等の次世代ネットワーク戦略の策定を進めている。

欧州

2018年4月に、The Academy of FinlandがOulu大学提案の6G研究開発プロジェクト「6Genesis」を国家研究資金プログラムに指定した。Nokiaなどが参画し、8年間で2.51億ユーロ(約299億円[2])が投入される。2019年3月に開催された「6G Wireless Summit」では、主要ベンダー、事業者、規制当局、学界を含む29カ国から約300人が参加し、その議論を踏まえたホワイトペーパーが2019年9月に公開された。また、欧州委員会は、研究開発資金を助成する「Horizon Europe」を通じて、2021年から2027年まで5G+と6G技術の開発を進める予定である。

中国

2019年11月に、工業・情報化部(MIIT)が6Gの研究開発開始を発表し、2つの組織(「6G研究推進の責任主体となる政府系の機関」、「37の大学や研究機関、企業からなる技術的組織」)を立ち上げた。また、5G技術で先行するHuaweiは、カナダのオタワのラボで6Gネットワークの研究を開始しているという。

日本

総務省は、5Gの次の世代である「Beyond 5G」の導入時に見込まれるニーズや技術進歩等を踏まえた総合戦略の策定に向け、政策の方向性等を議論する「Beyond 5G推進戦略懇談会」(座長 五神 東京大学総長)を立ち上げ、2020年1月27日に第1回会合が開催された。また、NTTドコモは2020年1月にホワイトペーパー「5Gの高度化と6G」を公表し、ソフトバンクは2020年2月の決算説明会において、大学や情報通信研究機構と6Gの共同研究を進めていると言及した。

モバイル技術開発の動向

【図2】モバイル技術開発の動向
(出所:「Radio Access Networking Challenges Towards 2030」
Matti Latva-aho, Academy Professor, Director for Finnish Wireless Flagship - 6Genesis, University of Oulu)

日本に期待される役割

冒頭に言及した2020年3月の「6G Wireless Summit」においては、6Gと国連のSDGs(持続可能な開発目標)は同じ2030年を目標としており、新しいワイヤレス技術の開発と重要な社会的課題の解決の間の相互作用を求めるとしている。日本では、今後、世界でも稀にみる人口減少、超高齢化の進展が予測されており、それに伴う労働力の不足、高齢者の移動手段の減少、医療・介護需要の増加等の社会的課題の解決が求められる。日本政府は「Society 5.0」を提唱し、5GをベースにIoT、AI等の先端技術の活用による課題解決をめざしており、総務省が主導する「5G総合実証実験」においてもその点を重視した取り組みが実施されてきた。

5Gによる超高速サービスには光ファイバーが不可欠であり、また、5G導入当初は既存の4Gネットワークとの連携を前提とした運用となるため、光ファイバーおよび4Gエリア展開が進んでいる日本は、他国よりも5Gの早期展開が可能とみられている。課題先進国である日本は、5Gを土台としたICT活用による社会的課題解決モデルを世界に先駆け創出するともに、6Gに向けた取り組みを先導することで、「Society 5.0」のめざす経済発展と社会的課題解決の実現が期待される。

*[1] 1ポンド=131.99円で換算


*[2] 1ユーロ=118.94円で換算

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