2021年6月15日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

不動産業界の展望と不動産テックのインパクトについて(後編)



1 はじめに

近年の不動産業界では、情報技術を活用して新しい付加価値の提供を目指す「不動産テック[1]」と呼ばれるサービスが次々と登場し、長引くコロナ禍のなか、オンライン接客やVR[2]・AR[3]技術を使った内見などのサービス利用が広がっている。

また、人口減少という大きな転換期にある日本の成長戦略は、「第4次産業革命(Industry4.0)」と「超スマート社会(Society5.0)」を柱とし、これらはAIやIoT、ビックデータ解析等の技術的な革新を産業や日常に取り込み、人手不足等の社会的課題の解決やイノベーションの創造を推進することを目標に掲げている。

不動産業界の生産性は極めて低い。要因の一つである「デジタル化の遅れ」は、情報技術を活用したデジタルトランスフォーメーション(以下「DX」)[4]の余地が大きいことも意味するが、このDXの取り組みを加速させる「産業革命」や「技術革新」とは何か。

本稿は、不動産業界の課題と展望を俯瞰しつつ、期待される不動産テックのインパクトについて、前号(2021年5月号)と今号の連載により考えるものである。

前号では、不動産業界の「業態と特色」、低い労働生産性とその要因を含む「業界の課題」、そして、人口減少やコロナ禍などの社会環境の変化がもたらす住環境ニーズの多様化を含む「業界を取り巻く環境」などを俯瞰し、住生活基本計画[51]や不動産業ビジョン2030[6]を通じて、「これからの不動産業の将来像や目標、業界等に期待される役割など」を展望した。

今号では、不動産テックについて概括し、社会や業界、業務プロセスや顧客サービスなどに与えるであろうインパクトについて考察する。

なお、不動産業界の課題やテックサービスは多岐にわたるため、本稿は概説にとどめる。個別の関心事やサービスの詳細については、別の機会に委ねたい。

2 不動産テックとは何か

(1)不動産テックと3つのデジタル化

不動産テックとは何か。不動産テック協会は、「不動産×テクノロジーの略であり、テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組み」と定義している。経済産業省が定義する「DX」とほぼ同じ意味合いであり、そこには、消費者における生活の質の向上という期待も含まれていよう。

DXという概念自体はそれほど新しいものではないが、デジタル化による「チェンジマネジメント」[7]と捉えれば、イメージしやすい人も多いのではないだろうか。そして、そのデジタル化の取り組みは、表1に示すとおり、3つのステップに分けられる。

表1:3つの“デジタル化”

表1:3つの“デジタル化”
(出典:筆者作成)

(2)不動産テックカオスマップ

最新の不動産テックカオスマップ(図1)によれば、不動産テックのサービスの多くはデジタイゼーションないしデジタライゼーションのステップに属するものの、現場の課題を解決するソリューションとして利用され始め、技術の進歩や規制緩和を背景に、3年間で約5倍にあたる352まで激増した。

図1:不動産テックカオスマップ

図1:不動産テックカオスマップ
(出典:一般社団法人不動産テック協会「不動産カオスマップ(第6版)」)

また、これらのサービスは12のカテゴリに分類され[8]、表2のように定義されている。なお、〔類型〕内は、以下にて後述する類型を追記したものである。

表2:不動産テックのカテゴリと定義

表2:不動産テックのカテゴリと定義
(出典:一般社団法人不動産テック協会「各カテゴリの定義」をもとに筆者作成)

(3)3つの類型化

不動産テックは、その役割や機能の面から3つに類型化されており(図2)、以下に概説する。

図2:不動産テックにおける3つの領域

図2:不動産テックにおける3つの領域
(出典:国土交通省「第25回国土審議会土地政策分科会企画部会」(平成28年3月23日))

①取引(Transaction)

プラットフォーム等を通じて、不動産に関わるヒト・モノ・カネ・情報を迅速、低コストかつ効率的にマッチングやシェアリングをするサービス群で、売買、賃貸、投資などの取引の増加や流通性の向上により、市場の拡大が期待される領域である。

資産や資金の有効活用に向けて不動産市場と金融市場とを結ぶクラウドファンディングも、ここに分類される。これらのサービスは、マッチングや取引が成立した際の手数料、広告料等を主な収益源とするビジネスモデルであり、情報を集約し、集客・送客する領域であることから、企業の資本力や取扱規模、情報のオリジナリティなどが事業の成否を左右する。表3に該当するサービスを例示した。

表3:取引(Transaction)に属する不動産テック(例示)

表3:取引(Transaction)に属する不動産テック(例示)
(出典:筆者作成)

②評価(Valuation)

経験を有する者しか評価できなかった相場や賃料、評価情報等の付加価値情報を、AIやビッグデータ解析などの情報技術を活用して即座に提供するサービス群で、情報の可視化や解析精度の向上が期待される領域である。付加価値の高い新たな情報の提供によって、情報格差の縮小や透明性の高い取引の実現に寄与するとともに、不動産に関わる意思決定の高度な支援を通じた資産の有効活用とその促進が期待される。

これらのサービスは、データを集約・分析し、推定結果を提供した際の対価を主な収益源とするビジネスモデルであり、情報の精度や希少性などが事業の成否を左右する。表4に該当するサービスを例示した。

表4:評価(Valuation)に属する不動産テック(例示)

表4:評価(Valuation)に属する不動産テック(例示)
(出典:筆者作成)

③業務(Operation)

業務フローや建物管理等の非効率な部分において、タブレット等モバイル端末やセンサー情報、ロボットなどの新たな技術やサービスを活用し、業務の効率化や高度化、省人化や生産性の向上を図る「業務支援系」のサービス群である。

これらのサービスは、利用料を主な収益源とするビジネスモデルであり、VR技術を活用したものやスマートロック、エレベーター内空間の小劇場化[9]など多彩なサービスが登場している反面、IoT機器やツールとしての側面が強く、企業の資本力や取引規模、あるいは特定マーケットへの専担化戦略などが事業の成否を左右する。表5に該当するサービスを例示した。

表5:業務(Operation)に属する不動産テック(例示)

表5:業務(Operation)に属する不動産テック(例示)
(出典:筆者作成)

2 住産業等におけるエコシステムと不動産テックのインパクトについて

前号にて紹介した住生活基本計画や不動産ビジョン2030が目指すゴールは広範囲に及ぶものの、以下では、住産業等におけるエコシステムのイメージ(図3)をもとに、不動産テックのインパクトについて、考察する。

図3:住産業等におけるエコシステム(イメージ)

図3:住産業等におけるエコシステム(イメージ)
(出典:筆者作成)

(1)デジタル活用~既存事業者による活用と超スマート社会(Society5.0)~

不動産テックが新しい事業領域として拡大していくと、既存事業者は「自らの事業や業務に対する不安」を感じ、あるいは、不動産テックによるサービスを利用することに二の足を踏むことだろう。

しかし、不動産ビジネスやそのプロセスは多岐にわたるため、「特定の機能に特化したサービス」として市場に投入される不動産テックは多く、また、実際の取引においては「人と人との関係性」は依然残ることもあり、すべての工程を情報技術が代替することはない。また、小資本・少人数で事業を営む小規模事業者においては、自らサービスを開発するなどのためにIT投資を維持することは難しい。

このような視点に立てば、大多数の既存事業者にとっては、不動産テックがもたらすメリットや可能性を理解し、自らの事業を活性化させる一つの武器として活用することが現実的である。サービスの提供や事業活動のすべてを自社で担うことは不可能な時代であればこそ、高度に特化されたサービスを自らのビジネスモデルやプロセスに組み込み、適切に活用していくことが、最良の選択となろう。

実際、長引くコロナ禍のもと、多くの事業者がオンライン接客やVR・AR技術を使った内見等の消費者ニーズに対応しており、なかには、スマートロックの導入等によって事業者間における業務プロセスのデジタル化を進めている事業者も多いことだろう。状況に応じてリアルかオンラインかを選択・利用できるという環境や体験価値の提供は、あらゆる関係者の「生活の質」や「業務の効率性」等を向上させ、そしてそのような変容こそが、近い未来として期待される「フィジカル空間とサイバー空間が一体化したサイバーフィジカルシステム(CPS)と情報通信ネットワーク基盤による超スマート社会(Society 5.0)」[10]への入り口になることだろう。

(2)サービスの構造変化~アンバンドリング化・リバンドリング化・淘汰~

不動産テックはもともと効率的で高度化されているため、一般論として、既存のプロセスやサービスを代替する。そして、アプリケーション系サービスの世界ではよく起きることだが、プロセスや機能のモジュール化が進行すると、固有な機能としてアンバンドリング化(機能分解・分業化)され、さらなるアンバンドリング化や他機能とのリバンドリング化(再統合)が繰り返されることによって、機能やプロセスが洗練され、業務の高度化と生産性の向上が図られていく。不動産の証券化業務では、業務の専門性を主導に、アセットマネジメント(資産運用計画等)やプロパティマネジメント(管理業務等)、コンストラクションマネジメント(建設プロジェクト等)への分業化が進んだが、不動産テックではテクノロジーとプロセスを主導に、構造変化と機能の高度化が進むことだろう。

(3)安心・安全な住まいの確保~情報格差の縮小と新たな課題~

売買価格や賃料、心理的瑕疵物件(所謂「事故物件」)[11]に関する情報など、事業者と消費者が有する情報の差は大きいが、マッチングサイトや価格査定サービス、事故物件を専門に扱う事業者[12]の登場等によって、それらの格差は縮小していく。特に、一次取得世代とされる40歳前後に差し掛かるデジタルネイティブ世代[13]では、SNS等を通じた個人的な情報収集を含め、その格差はさらに縮小していくことだろう。

他方、事業者間における情報格差やデジタル格差が生じる可能性は高い。特に、人のつながりによる情報収集を重視し、その情報の独占とKKDH(勘・経験・度胸・ハッタリ)を頼りにしてきた事業者は、情報弱者・デジタル弱者になりかねないだろう。不動産テックの登場によって、個人の能力を超えたところで様々なデータや情報の収集・加工・分析が可能となり、その成果が新たな価値を生み出す循環が期待されるからである。科学的で、精度が高い幅広い情報は、活用する者とそうでない者との間に大きな差を生み、ビジネスの成否を左右することになる。活用する者は、より効率的に見込客を発掘し、追客し、より精度の高い提案を容易に行い、成約率を高めていく。前号でも言及したとおり、不動産ビジネスは、不動産と消費者をつなげる「情報提供型サービス」事業だからである。

(4)不動産流通の促進

物件情報や口コミなどを集約する情報サイト、古民家等の特殊物件について消費者同士をダイレクトにつなぐプラットフォーム、消費者とリフォーム業者等とのマッチングサイト、事業者による代理等を必要とせずに所有者自らが直接売却を行う(FSBO)[14]プラットフォーム等により、アクセス数の増加や滞在時間の長期化などのウェブマーケティング上の効果に加え、不動産市場における取引の増加や流動性の改善が期待される。

また、AIやビッグデータ、金融工学等を活用した価格査定サービスは、それまでは事業者に相談しないと得ることができなかった資産価値や売買価格などの情報を、容易に、低コストで、かつ早期に知ることができるなどの大きなメリットを消費者にもたらすとともに、取引の透明性を高めながら不動産の流通を促進していく。そして、統合DBが整備され、参照可能な情報が広がると、差別性のある高付加価値情報ビジネス分野として、大きく飛躍することだろう。ところで、日本の既存住宅の市場流通量は15%[15]で、米国81%や英国86%と比べてかなり低いが、自宅と自宅以外の興味ある物件双方の査定価格やローン借り換え比較条件等を織り込んだリコメンデーションサービスが登場すれば、「資産性を確保しながら生活拠点の多様化を求め、自宅を積極的に買い替えていく」新しい持ち家のスタイルが、生まれてきてもよかろう。

なお、現状の価格査定サービスは、ウェブ上に公開される価格情報等について、クローリング[16]やスクレイピング[17]を行うことで収集・分析・情報提供するが、成約情報やその分析を伴わないために査定品質の向上が難しいとも言われる。やはり、成約情報も含めた統合DBの整備が期待される。

(5)場とコミュニティの創生

リニア中央新幹線による三大都市圏の一体化がもたらすスーパー・メガリージョンとしての「巨大都市圏」の形成、人口減少が進む地方都市圏での都市機能の再配置と都市サービス機能の効率的な提供による「コンパクト+ネットワーク」型地方都市圏の形成、さらに、集落地域における生活サービス機能を集約した「小さな拠点」の形成など、今後の都市構想等においては新たな役割が不動産業界に強く期待されている。例えば、地域のニーズに即した「場」の創造や、建物管理等のハード面だけでなくコミュニティのつながりを深めるイベント運営等ソフト面も合わせた両面における「エリアマネジメント」の推進、子育て世帯などが安心して暮らせる地域づくりに向けた見守りサービスなどの付加価値サービスの提供によって地域や不動産にプラスの価値を生じさせる「エリア再生」の促進などだ。

これらの実現は、地理的で物理的な不動産形成やイベントだけでは達成できず、情報技術や不動産テックの活用が大いに期待されるところである。例えば、空き家の掃除ニーズと地元住民の労働力(スキマ時間)をマッチングさせて空き家を上手に維持管理[18]したり、IoT家電やセンサー情報、スマートフォン等のモバイル端末情報、電気・水道などのライフラインに関するメーター情報などを高齢者や子供の見守りサービス[19]に応用したりするなど、様々なテックサービスが登場し、活用の場が広がっている。今後はより大きな視点で、スーパーシティ構想の実証実験(データ連携基盤を中心としたサイバー空間とフィジカル空間の融合)やスマートシティ(管理・制御モデル)とコンパクトシティ(計画的都市再生)が融合した新しい都市再生モデル等への実装が行われるとともに、第5世代移動通信システム(5G)とIoT、AIやエッジコンピューティングなどを活用することで実現が期待される人間の行動予測に基づく支援サービス、デジタルツイン技術を用いたホームステージサービスやバーチャルウインドウサービス、5Gの特長を活かしたIoT家電(スマートホーム)やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)のさらなる進化などが現実のものとなり、こうした不動産の最適活用と連動した技術的な試みや新たなサービスが、生活の質の向上と体験価値の創造を促していくことだろう。

(6)新たなビジネスモデルの創出

従来のビジネスモデルでは市場の縮小が想定されるなか、不動産テックの進展により、新たなビジネスが育ち始めている。

①スペースシェアリング

インターネットを介して個人と個人・企業等の間でモノ・場所・技能などを売買・貸し借りする等の経済モデルと呼ばれる「シェアリングエコノミー」[20]市場が成長しているが、不動産業界においても、リノベーション事業による良質なストックの提供を含め、スペースシェアリングサービスとして拡大している。住宅系では「シェアハウス」や「ソーシャルアパートメント」[21]、オフィス系では「サテライトオフィス」や「シェアオフィス」、「ボックス型スペースサービス」、商業系では「シェアキッチン」や「シェアスタジオ」、さらにこれらに分類されないものとして、ロビースペース等をコラボ空間として提供するホテルやオフィスビル、オフィス・賃貸・コワーキング区画と休憩スペースを併設する複合型賃貸マンション、全国の空き家や古民家提供サービス[22]、ホテル[23]に住める「サブスクリプションサービス[24]」などが、日々、登場している。

②インバウンド需要への対応

グローバル化による都市間競争が激化するなか、増加する外国人観光客や在留者(現在は、コロナ禍の影響により激減)に向けた、地域の自然や景観資源を活かしたまちづくりとともに、異文化に配慮した生活や就労における「住宅セーフティネット」としての役割も見据え、「民泊」事業者の増加が進んでいる。令和3年2月における民泊事業の届出件数は28,635件[25]で、住宅宿泊事業法(民泊新法)施行日(平成30年6月15日)比で約13倍となるなど、インバウンド需要の受け皿の一つとして期待されている。しかし、設備や交通手段等の案内、苦情対応などを外国語で行わなければならないなど、外国人観光客に対する快適性や利便性を確保する等配慮すべき義務も多く、多言語対応サービス等のICTを活用した支援策が望まれる。

③相続系ビジネス

高齢者の増加や相続に伴う空き家問題を含め、昨今、相続をめぐる環境に変化が生じている。相続においてトラブルとなる遺産規模は5,000万円以下[26]が75%を占め、その原因は、主な遺産が自宅であることから分割が困難なためとされている。共有物の分割には、価格賠償等4種類[27]があるが、手続きの過程でトラブルに発展することも多い。そのため、相続前に不動産を資金化させ、そのまま住居に住み続けられる「リースバック」や「リバースモーゲージ」の利用が広がっており、「不動産+金融」サービスを新たな事業の柱として取り組む不動産テック企業[28]も登場している。

④不動産の動く化「移動商業店舗」

コロナ禍において、多くの人が集まる多店舗型商業施設等には行きにくいなか、TVドラマにも登場した「移動商業店舗」が注目されている。従来、不動産として固定されていた店舗自らが移動し、人々の生活のなかに入っていくもので、実店舗やECに次ぐ、第3の顧客接点を生み出す試み[29]とされている。固定型の店舗では立地や曜日により、ピークタイムとアイドルタイムなどが移り変わるが、ピークタイムに応じて出店場所を移動させることで、効率的な販売が可能となることだろう。弁当や食品だけではなく、日用品から機械類まで広範な物品の販売やメンテナンスサービス、マッサージ、ヨガ教室などのサービス事業、包丁砥ぎや靴磨き等の専門サービスなど、多様なサービスの提供が期待されよう。人の流動、年齢、季節、曜日、時間帯、天候、車の渋滞状況や交通機関の運行情報、トレンド情報などのビックデータを収集・解析して需要予測し、オンデマンドベースのサービスとして不動産を走らせるビジネスモデルは、まさしく、情報技術を活かせる領域となろう。さらに、このようなサービスは平時に限らず、地震や水害、大規模停電などの有事においてこそ、安心を届けるサービスとして一層期待されよう。

⑤能力開発と教育ビジネス

不動産に関わる専門家には、今後は、消費者や地域における多様なニーズに対応するためのコンサルティング能力の向上が求められよう。物件や不動産取引、投資に対する消費者の正確な理解を促し、トラブルや紛争の未然防止等を図り、不動産に関わる“トータルサービス”を率先して提供していくとともに、建設業者や金融機関、司法書士等の専門家などの様々な関係者とのネットワークを、日頃から積極的に構築していくマネジメント能力が求められていく。

さらに、不動産業界のビジネスや取引プロセスでは、電子契約やIT重説をはじめ、デジタル化が加速していくなか、デジタルネイティブ世代が主要顧客層となったとしても、不動産はすべての世代に関わる生活基盤であり、デジタル弱者や情報弱者に対する配慮は不可欠である。自らの業務や消費者によるサービス利用の両面において、情報技術に関わるスキルの啓発が求められ、業界全体でも積極的にスキル習得に取り組んでいくことが肝要である。

3 最後に

急速に進む人口減少や人手不足、グローバル化とAI等の技術進化など、事業環境が大きく変貌していくなか、不動産業では、業界、事業者、就業者、そしてビジネスモデルの変革が求められている。この機をチャンスと捉え、情報技術やサービスを組み合わせたイノベーションによって新たな価値を創造しようとする者、それが不動産テック企業なのかもしれない。

不動産テックにおいては、長引くコロナ禍の影響もあり、VR・AR技術を活用した内見や電子契約など、顧客との接点場面におけるサービスを中心に利用価値の高まりが認められる一方で、統合DBの整備や「所有から利用へ」の進展に伴い、価格査定サービスやスペースシェアリング等の新しいサービスが、今後はさらに広がることだろう。そして、デジタルな体験価値の創造とビジネス変革を導くキードライバーとして、事業領域全体が大きく成長していくものと考えたい。

住宅の空室対策ニーズを取り込んだAirbnb、「コミュニティ型ワークスペース」をコンセプトに快適性や発展性ある空間を提供するWeWork、そして、今後の小売業態として浸透すると思われるレジレスコンビニを創造したAmazon Goなどに代表される、産業構造に大きなインパクトを与える「ディスラプター(破壊者)」と呼ばれるテック企業は、日本では未だ誕生していない。日本の国土を舞台に、不動産の最適活用による価値創造とその最大化を生業とする、不動産業界のこれからにおいてこそ、「世界に伍する」テック企業の登場を期待して止まない。新たな「黒船」が上陸する前に。

[1] 英語では、Real Estate Tech、Re Techなどと呼ばれる。

[2] Virtual Realityの頭文字で、「仮想現実」と訳される。

[3] Augmented Realityの頭文字で、「拡張現実」と訳される。

[4] 経済産業省の定義によれば、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する」こと。

[5] 国民の住生活の安定の確保や向上の促進に関する基本的な計画。住生活基本法に基づき、全国計画は政府が、都道府県計画は都道府県が策定する。全国計画には、計画期間、基本方針、目標、基本的施策等が定められる。

[6] 不動産業に携わるすべての関係者に対する指針として、1992年以来となる2019年4月に発表された。

[7] 2000年代、大手企業を中心に導入された「企業変革を推進させ、経営を成功に導くフレームワーク」手法。

[8] 米国「VENTURE SCANNER」では、2019年第1四半期における不動産テックサービスは1,755で、ホームサービスやプロパティマネジメントなどの住宅や建設業界を含む12のカテゴリに分類されている。

[9] spacemotion株式会社(東京都千代田区)による日本初となるエレベーター内プロジェクション型
メディア「エレシネマ」。

[10] 総務省「Beyond 5G推進戦略懇談会 提言(案)」。

[11] 不動産取引において、買主や借主に心理的な抵抗が生じる恐れのあることがらを心理的瑕疵と言い、自殺・他殺・事故死・孤独死などがあったことや近くに墓地や嫌悪施設が立地していることなどが該当する。不動産物件の物理的、機能的な瑕疵には該当しないが、物件の評価に影響するため、知っていながらその事実を説明しない場合には「契約不適合責任」を問われるケースもある。ただし、心理的瑕疵に該当するか否かの明確な基準はない。

[12] 株式会社MARKS(神奈川県横浜市)は、2019年から「成仏不動産」というブランド名で事故物件をメインに取り扱いを開始。

[13] 学生時代から、インターネットをはじめとしたIT技術やパソコン、携帯電話やスマートフォン等のIT製品が普及していた環境に育った世代のこと。ミレニアム世代とほぼ重なる。

[14] For Sale By Ownerの頭文字。住宅流通市場において、売り主が自ら値段を決めて物件を売り出す方法。米国では、FSBOによる中古住宅の販売は全流通量の1~2割を占めると言われている。

[15] 国土交通省「既存住宅市場の活性化について」(令和2年5月7日)。

[16] インターネット上のウェブサイトをプログラムが巡回し、情報を収集すること。

[17] クローリングで収集した情報から、不要な情報を削り取り、重要な情報を取得すること。

[18] Rsmile株式会社「COSOJI」(“不動産業界の軽作業”と“地域住民の方々”を直接つなぐワークシェアサービスを提供)。

[19] 株式会社otta「otta」(基地局情報だけでなく、住民のモバイル端末等も活用した地域全体で見守るサービスを提供)。

[20] 一般社団法人シェアリングエコノミー協会による定義。

[21] 株式会社グローバルエージェンツ(東京都渋谷区)が商標登録した言葉。「従来型の部屋+ラウンジ等の充実した共用スペース+民間の交流を楽しむマンション」のこと。

[22] 定額全国住み放題の「ADDress」(東京都千代田区)、世界中の拠点を自由に選べる「HafH」(長崎県長崎市)など。

[23] 帝国ホテル、三井ガーデンホテルズ、クロスホテル(オリックスグループ)など。

[24] ある商品やサービスを一定期間、一定額で利用できる仕組みのこと。

[25] 民泊制度ポータルサイト。

[26] 司法統計年報家事事件編(平成30年度)によれば、1,000万円以上5,000万円未満が43.0%、1,000万円未満が31.9%。

[27] 現物分割(共有物を物理的に分割し、分け合うこと)、代金分割(共有物を第三者に売却し、代金を分けあうこと)、競売賠償(裁判上の「競売」によって共有物を第三者に売却し、代金を分けあうこと)、
そして価格賠償(共有者のうちのいずれかが、他の者にお金を支払い、解決すること)の4種類がある。

[28] 株式会社ハウスドゥ(東京都千代田区)など。

[29] 三井不動産株式会社「移動商業店舗プロジェクト」など。

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