2021.10.28 メディア2030 InfoCom T&S World Trend Report

米ユーススポーツ分野におけるライブストリーミングサービスの躍進

デジタル技術をはじめとした新技術やデータを活用し、スポーツの成長産業化に向けて「地域スポーツ」をどう活性化させられるか。本稿ではその検討の一助として、米国のユーススポーツ(青少年スポーツ)分野におけるライブストリーミングサービスの躍進の動向を紹介する。

1.地域スポーツの活性化は重要論点

日本においては、スポーツに関する国の施策の総合的かつ計画的な推進を図るための重要な指針としてスポーツ基本計画がある。2021年4月21日諮問により現在、スポーツ審議会スポーツ基本計画部会にて「第3期スポーツ基本計画」(2022〜2027年)の策定が議論されており、今年度内(来年3月)に同計画は決定される予定だ。

スポーツ関係施策を実施する省庁は、文部科学省スポーツ庁以外にもいくつか存在する。中でも最近の取り組みで注目されるのは2020年10月に「地域×スポーツクラブ産業研究会」(座長:間野 義之 早稲田大学スポーツビジネス研究所 所長)を立ち上げている経済産業省だ。「地域×スポーツクラブ産業研究会」は第1次提言を2021年6月に発表[1]。個別具体的な検討すべきポイントの明示に加え、「トップスポーツ」と「地域スポーツ」の資金循環・人材循環を通じたスポーツ産業の成長産業化、つまり、トップスポーツの成長と地域スポーツの成長を車の両輪として考える必要性を提言しているのが特徴だ(図1)。スポーツの成長産業化自体は、「日本再興戦略2016」に位置付けられて以来の重要テーマであり、同研究会はスポーツ基本計画への反映を念頭に置きつつ、年度内に第2次提言として「スポーツ産業ビジョン(仮)」の公表を目指している。

【図1】「地域×スポーツクラブ産業研究会」の第1次提言における特徴的部分

【図1】「地域×スポーツクラブ産業研究会」の第1次提言における特徴的部分
(出典:経済産業省「地域×スポーツクラブ産業研究会 第1次提言 概要版」(2021年6月))

第3期スポーツ基本計画策定の諮問理由には、「地域における青少年のスポーツ環境の整備を進めていくことが急務の課題」「(東京大会等での)これまでの成果を、国民生活に根差したレガシーとして、継承・発展させていくことも重要な課題」との認識が示されている。これらの認識を踏まえると、新たに決定されるスポーツ基本計画、また、その指針に基づき進められる諸施策においては、地域スポーツの活性化に向けてデジタル技術やICT等(SportsTech[2])をどう活用するかが重要な論点の一つとなると考える。

2.米国ユーススポーツでは試合映像のストリーミングが人気

以下では、地域スポーツの一種である米国のユーススポーツ[3]における試合の映像配信に注目し、具体例を紹介する。ユーススポーツにおける試合の映像配信は、組織的にビジネスとして行われており、米国のSportsTechの中でも成長著しい領域である点を踏まえると、日本においても資金循環創出の参考になると考えるためだ。

2-1.BallerTV[4]

BallerTVは、ユーススポーツイベントのライブストリーミング(生中継)、リプレイやハイライト映像を提供する事業者で、2016年に米カリフォルニア州パサデナで設立された。屋内競技であるバスケットボールやバレーボールを対象として、そのライブストリーミングを強みとしてきた同社は2021年9月、屋外競技を対象として試合映像を撮影・提供する事業を展開していたNextPro社の買収を発表。新たにラクロス、サッカー、野球、ソフトボールを対象として、NextPro社が手掛けていなかった屋外競技のライブストリーミングを行い、事業規模を拡大させている(図2)。

【図2】BallerTVにおけるユーススポーツのライブストリーミング例

【図2】BallerTVにおけるユーススポーツのライブストリーミング例
(出典:BallerTV(2021年10月11日閲覧))

BallerTVがライブストリーミングを実現している仕組みは、先端技術と地道なロジスティクスの組み合わせによる。先端技術面では、2019年9月に買収したFieldVision社の技術が大きな役割を果たしている。具体的には、競技中の選手やボールを追跡(トラッキング)しながら撮影できる技術(自律型カメラ技術)が、現場での撮影稼働の大幅な軽減を可能にした。現場からの配信にはモバイルネットワークが活用される。

ロジスティクス面は、BallerTVが従来得意としてきたもので、撮影する試合イベントごとに必要な撮影機材やその他の物品(会場看板や消耗品等)を適切に確保し、現地倉庫の利用と配送センターからの直送を組み合わせて過不足がないようにする。イベント終了後の撮影機材等は配送センターに戻され、品質検査等を行い、次のイベントのために発送準備が行われる。この繰り返しがロジスティクスの中心的営みであり、機材繰りの効率性を高め、より多くの試合のライブストリーミングを可能にしてきた。

収益は加入者(視聴者)の利用料から得る。サブスクリプションモデルで3プランが用意されている(表1)。加入者件数は公表されていないものの、最大の視聴者は選手家族だという。また、加入者には約3,000人の大学スポーツのスカウト担当者が含まれており、BallerTVが将来有望選手の発掘・リクルートに利用されている点は見逃せない。活躍をアピールしたい選手、選手の活躍を見たい家族・親戚、将来有望選手を発掘したいスカウト担当者のいずれもが満足できる、まさに三方よしのサービスというわけだ。

BallerTVは今年2021年9月末時点で既に30万件以上の試合を配信。年末までには35万件から40万件の配信を予定しているという。同社は最近の成長の原動力として、FieldVision社の買収による自律型カメラ技術の導入と、コロナ禍で選手家族の試合観戦への直接参加が制限されたことによる観戦のライブストリーミングへの移行を挙げている。

【表1】BallerTVのプラン(加入者向け)

【表1】BallerTVのプラン(加入者向け)
(出典:BallerTV(2021年10月11日閲覧))

 

2-2.NFHS Network[5]

NFHS Networkは、高校スポーツに特化してライブやオンデマンドによるストリーミングを提供する事業者で、また、同社が提供するサービス名称でもある(図3)。従来高校スポーツ分野のメディア企業であったPlayOn! Sports社とNFHS[6](全米州立高校協会)が2013年に共同で設立したもので、それまで各州の高校体育協会が個別に運営していたスポーツメディアとそれに関連する諸権利を集約したことが設立の背景である。

【図3】NFHS Networkのイベント一覧ページ

【図3】NFHS Networkのイベント一覧ページ
(出典:NFHS Network(2021年10月11日閲覧))

米国市場では、NFHS Networkは前項で紹介したBallerTV等のコンペティターとして認識されている。BallerTVと対比的に紹介すると、NFHS Networkの場合、自校で行われる試合のライブストリーミングのために同サービスへの加入を希望する学校に対し、配信を実現するためのプログラムを提供し、学校と一体的に取り組んでいる点が特徴である。

例えば配信を実現するためのプログラムのうち、試合映像のライブストリーミングを完全自動で行うプログラム(Automated Production)の場合、NFHS Networkが学校のグラウンドや体育館にイスラエルPixellot社のAI搭載自動撮影カメラを設置する。その際、学校側の費用負担は原則ない。4つのレンズが搭載されているこのAI搭載自動撮影カメラは極めて高性能で、選手の動きを学習し、まるでカメラスタッフが撮影しているかのようにプレーの状況を追いかけ続け、撮影することができる(図4)。

【図4】NFHS Networkで活用されるAI搭載自動撮影カメラ(Pixellot社)の紹介ページ

【図4】NFHS Networkで活用されるAI搭載自動撮影カメラ(Pixellot社)の紹介ページ
(出典:NFHS Network(2021年10月11日閲覧))

収益を加入者(視聴者)の利用料から得る点は、Baller TVと共通だ。NFHS Networkでは、同サービスが提供する試合映像を見るためには、加入者は年間パスや月間パスを購入する必要がある[7]。この収益の学校への還元という点がユニークで、加入者が応援したい学校を選べば、その学校に加入者からの利用料が分配され、学校が潤う仕組みとなっている。具体的な加入者数は不詳ながら、設立以来、州協会や学校に対し、3,300万ドル(約36億円)以上を分配、直近12カ月に限っても800万ドル(約9億円)以上を分配したとしている。

同社はAutomated Productionのプログラムを開始してから最初の2カ月間で、2,500校以上の学校に4,000台以上のAI搭載自動撮影カメラを配布、今ではその数は全米で9,000台以上の規模へと広がりを見せており、試合映像を配信したいという学校側の強いニーズを反映していると考える。

3.国内の地域スポーツ活性化への示唆

米ユーススポーツ分野におけるライブストリーミングサービスの活況ぶりは、プロスポーツでなくても、つまり、身近な青少年スポーツや地域スポーツであっても、ライブストリーミング市場が成立する可能性を示している。プロスポーツに比べ、ユーススポーツでは1チーム当たりのファンの数は相当に限られるかもしれないが、チーム数自体は圧倒的に多い。したがって、そのライブストリーミング市場を成立させるためには、1イベントのライブストリーミングに係る稼働を、AI搭載自動撮影カメラのようなSportsTech(先進技術)の徹底活用で極力減らし、多くの試合イベントに対応できる必要がある。BallerTVやNFHS Networkは、アプローチは違うものの、人手をかけない工夫と技術活用で多くのイベントのライブストリーミングに対応し、結果多数の加入者を獲得できている点で市場創出に成功したといえるのではないか。

なお、本稿では詳述していないが、試合のライブストリーミングで蓄積された映像データをコーチング(指導)に活用するといったプロスポーツで行われてきたデータ活用のしかたがユーススポーツというアマチュアの世界にも持ち込まれている。いわば、ユーススポーツのプロ化と呼べるような状況が出てきている。

本稿で紹介した米国ユーススポーツ分野におけるライブストリーミングサービスと同様のサービスを日本で広げていこうとする場合、どのような課題(例えば、選手の肖像権、関係者間での費用負担、各種規制との関係等)があり、それをどう解決しうるのかは検討に値するのではないかと考える。

[1] 経済産業省「地域×スポーツクラブ産業研究会の第1次提言について」(2021年6月)

[2] SportsTechは、「観る」「支える」「する」「創る」といったスポーツとの関わり方において、デジタル技術やICTなどの先進技術を用いてスポーツとの新たな関わり方をもたらすソリューション・サービス、製品、それらを提供する事業者の総称。スポーツ庁「Sports Open Innovation Platform (SOIP)」(2018年12月)、NTTデータ経営研究所「Sports-Tech Landscape 2020」(2021年1月)、Aesta「スポーツテックカオスマップ2021年.ver」(2021年1月)等を参照。

[3] 米国におけるユーススポーツは、成人年齢未満(州により、また、競技により異なるが概ね18歳未満)の競技者が行うスポーツを指し、学校で行われるスポーツ(High School Sports)や、地域で活動するスポーツを含む。

[4] https://www.ballertv.com

[5] https://www.nfhsnetwork.com

[6] 正式名称はNational Federation of State High School Associations(https://www.nfhs.org/)。

[7] 細かくいえば、年間パスに相当する金額を学校がまとめて同ネットワークに支払い、学校関係者や選手関係者に限り無料で視聴できるようにしているケースもある模様。本稿はビジネスモデルの詳述が目的ではないため、ここでは加入者が利用料を払って視聴するモデルと整理する。なお、2021年10月11日時点での年間パスは69.99ドル/年、月間パスは10.99ドル/月となっている。

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