2021年12月27日掲載 ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

ドコモグループが目指す最先端高齢者見守り ソリューション ~データ活用がもたらす介護の新しい姿



超高齢化社会に突入する日本

「2025年問題」が刻々と迫ってきている。日本では2025年以降に、「団塊の世代」(1947年~1949年生まれ)が後期高齢者になり、超高齢化社会に突入すると言われている。厚生労働省が2021年7月に実施した調査(図1)によると、2019年度時点で(介護)職員として働いていた人数(約211万人)を基準とすれば、2025年度に必要とされる職員の数は55万人になるとされている。一方、同調査では新型コロナウイルス感染の影響も相まって、職員の確保は一段と厳しくなるとも予想されている。

【図1】第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について

【図1】第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について
(出典:厚生労働省資料2021年7月)

そうした将来を見据え、ドコモグループでは、神戸市と共同で2019年度からプライバシーに配慮した小型ワイヤレス生体センサーを活用した高齢者向け見守りサービスの実証実験を進めている。同実証実験では、高齢者介護向け非接触型遠隔モニタリングソリューションを提供する米Tellus You Care社(以下、「テラス社」)と共同で開発したワイヤレス生体センサー「Tellus見守りセンサー」(図2)を活用し、介護施設個室内における利用者の睡眠状況や起床状態などをリアルタイムで把握することが可能となっている。また、同センサーにはカメラが搭載されていないことから、利用者のプライバシーに配慮したものとなっている。

【図2】非接触生体センサー「Tellus見守りセンサー」を活用した介護ソリューション

【図2】非接触生体センサー「Tellus見守りセンサー」を活用した介護ソリューション
(出典:ドコモより資料提供)

2020年度には同センサー導入による(介護)職員の負担軽減に関する有用性が認められ、実証事業を拡大。神戸市内の介護老人保健施設2カ所(すま松の郷、すばる六甲)にて、1フロアすべての個室にセンサーを設置し、介護現場における運用実証を実施した。また、2021年12月からは、Tellus見守りセンサーで収集されたデータを活用した介護品質改善検証も進められている。

こうした高齢者向け見守りサービスは、職員の負担を軽減させつつも適切に介護を提供するものであり、超高齢化社会に向けて、介護する側される側の双方にとって有効なソリューションだと言える。

今回、同プロジェクトを推進するNTT ドコモ イノベーション統括部 事業化第三担当 担当課長 安部孝太郎氏と山浦隼人氏、狩田亮氏、さらに米テラス社の日本法人ジェネラルマネージャーのクリシャン・カルドウェル氏とカスタマーサクセスマネージャー江崎日淑氏に話を聞いた。その模様を紹介する。

聞き手 情報通信総合研究所
 仁木 孝典(上席主任研究員)
 中村 邦明(主任研究員)

<1:今回の高齢者向け生体センシングサービスの実証を開始するに至った経緯>

―(ICR)早速ですが、神戸市との実証について、その経緯から教えていただけますか。

【写真1】ドコモ 安部氏

【写真1】ドコモ 安部氏
(出典:情報通信総合研究所撮影)

ドコモ【安部】:私たちのチームでは「社会課題」を起点とした新たな価値創出に取り組んでいます。2016年より連携協定を締結している神戸市ではICTやデータ活用を通じて地域における様々な社会課題解決に挑んできました。2019年度からは「交通」「介護」「防災」の領域に焦点を当てつつ、センサーやAIなどの先進技術の応用による価値創出に取り組んでいます。

―(ICR)今回、介護の領域における実証になりますが、進めるうえで苦労した点は何でしょうか。

【写真2】ドコモ 山浦氏

【写真2】ドコモ 山浦氏
(出典:情報通信総合研究所撮影)

ドコモ【山浦】:介護の実証は当初トライ&エラーの連続でした。この検証でのテーマは「いかに心的、身体的負担をかけずに先進技術を活用できるか」でした。神戸市の介護現場では介護される方に、カメラで監視されたりすることや、腕などに機器を装着すること等への抵抗感がありました。そこで私たちは離れていてもその部屋にいる方の呼吸数や心拍数を計測できる非接触型のセンサーの活用を視野に入れ、国内外の数多ある開発企業のうち、テラス社に着目し、NTTドコモ・ベンチャーズの出資を経て試験導入を開始しました。2019年度から段階的に施設で実証を行い、今に至っています。

―(ICR)今回の実験に参加されたテラス社は、どの様なソリューションを提供しているのでしょうか。また実証実験の成果はどうでしたか。

【写真3】テラス社 カルドウェル氏

【写真3】テラス社 カルドウェル氏(出典:情報通信総合研究所撮影)

テラス【カルドウェル】:我々は、介護施設向けのプラットフォームで、利用者のリアルタイムなモニタリングやケア記録を見える化(データ化)し、それらのデータを分析することで、介護者のストレスを最小限に抑えた介護サービスの運用を実現することを目指しています。また、施設の業務負担軽減以外にも、職員がデータに基づいたアプローチで個々の利用者に最適化されたケアを行えるようにすることをビジョンとしています。

これまでのドコモや神戸市とのPoC[1]では、これらの目標達成にいち早く到達するために必要な利用者のデータを収集することができました。ドコモ、神戸市、さらに市地元で介護サービス事業を展開するシーナ社と共同で実施するPoCでは、データ収集だけでなく新たにデータ活用に向けた取り組みができるとのことでとてもワクワクしています。

今回は、ケアマネージャーにも協力してもらい、Tellus見守りセンサーから得られたデータを使って、利用者、職員、施設管理者と共に、ケアプランとの関連性も含めて検証していきます。

今回のPoCが成功した暁には、ドコモやシーナ社と協力して、全国の介護施設にTellus見守りセンサーをお届けする方法を検討していきたいと考えています。

【図3】Tellus見守りセンサーを活用した 介護ソリューションの仕組み

【図3】Tellus見守りセンサーを活用した
介護ソリューションの仕組み
(出典:ドコモより資料提供)

【図4】ワイヤレス生体センサー「Tellus見守りセンサー」

【図4】ワイヤレス生体センサー「Tellus見守りセンサー」
(出典:ドコモより資料提供)

<2:高齢者向け生体センシングサービスの実証を通して検証する具体的なポイント>

―(ICR)今回の実証実験で活用した技術の特徴はどの様なものでしょうか。

【写真4】ドコモ 狩田氏

【写真4】ドコモ 狩田氏
(出典:情報通信総合研究所撮影)

ドコモ【狩田】:ご存知のとおり、国内外の有名企業が出すウエアラブルセンサーにはアームバンド型や腕時計型のものもあります。直接身体に触れる箇所から呼吸数や心拍数を計測する仕組みですが、今回の技術の新しさはそれを「身体に接触せずに」高周波数帯のミリ波を用いて取得するという点にあります。

―(ICR)高周波数帯を使ったセンサーとはどの様なものですか。

テラス【カルドウェル】:自動運転やドローンなどで使われる高性能レーダー技術をヘルスケアに応用しました。同技術を活用することでミリ単位の身体の細部の動きを検知することができますので、胸部の動き等を検出することで心拍数や呼吸数を測定することが可能です。また心拍数や呼吸数以外にも、在室・外出・ベッド上・睡眠などの状態をセンシングすることができます。

高性能レーダー技術だからこそ、コンパクトかつプライバシーを配慮したものにしつつも、介護に必要なデータを収集・蓄積することが可能です。

―(ICR)ワイヤレスセンサーを使うことで人に触れることなく様々な生体データをセンシングすることができるんですね。プライバシー保護、さらにはコロナ禍における介護の観点で、非常に重要なポイントを技術で解決していると思います。センサーの技術検証で分かったことは何でしょうか。

ドコモ【安部】:2019年度当初は「そもそも非接触型のセンサーが実際の介護現場でデータを一定程度取得できるのか」という技術的な検証テーマに主眼を置いて取り組みました。取り組みとしては、テラス社のセンサー1台をベッドの脇に設置し、利用者の位置に応じたチューニングをしつつ、心拍数と呼吸数を計測することから始めました。

ドコモ【山浦】:検証を進める中で、お部屋のレイアウトや利用者の状態がデータ取得に影響を与えることが分かってきました。介護施設のお部屋のほとんどは、おおよそ同じようなレイアウトであることが多いです。しかし、直接お伺いすることで分かったのは、レイアウトは同じでも、お部屋の環境は利用者毎に様々であるということでした。この個々のお部屋の環境の違いが取得するデータに影響を与えているということが分かりました。

また、お部屋の環境以外にも、車椅子で生活されている方や寝たきりの方など、利用者一人ひとりの状態もデータに影響を与えていました。この点に関してはテラス社のCEOに神戸市の介護現場に足を運んでもらい、日本の介護市場での精度をどの程度まで向上させるべきか等について目線を合わせました。これにより現在では開発側の体制も徐々に整ってきています。

―(ICR)テラス社のCEOが米国から実際に足を運んで視察したんですね。

テラス【カルドウェル】:そうです。これらのデータは私たちのサービスを改善していく大きな発見になりました。部屋のレイアウトや利用者の状態を把握し、それらに合わせて徐々に自動化していけるようなプロジェクトを社内でスタートさせるきっかけになりました。

―(ICR)取得データの精度が上がると同時に、今後自動化されれば、誰もが手軽にセンサーを導入することができますね。2020年度ではどの様な検証を実施したのでしょうか。

ドコモ【安部】:2020年度は介護現場の運用課題に着目して取り組みを進めてきました。テラス社のサービスが「誰に」対してメリットをもたらすのかを検証しました。そこで着目したのは、利用者と職員の夜間見守りの負担でした。神戸市のある介護施設では、夜間は昼間よりも少ないメンバーで部屋を一つ一つ巡回・見守りする必要があり、それにより職員のみならず利用者に対する身体的な負担につながっていることがヒアリングから明確になってきました。介護現場は24時間365日稼働し続けていて、特に現場の職員のみなさまは様々な業務に忙殺されています。

―(ICR)夜間帯の負担の軽減は重要ですね。その夜間帯の負担軽減に向けて、どの様な取り組みを実施しましたか。

ドコモ【山浦】:職員が待機しているステーション側から部屋にいらっしゃる方々のバイタルデータを一元的にリアルタイムで把握することができれば、巡回の箇所や頻度を減らせると思い、運用実証を進めました。コロナ禍の影響もあり明確に効果が立証できる程のデータ量には到達しませんでしたが、職員のみなさまへのヒアリングにより、本機器の導入で夜間見守りの回数を減らせる可能性が導出できました。

―(ICR)実際に現場の声を聴くことでより効果的なソリューションが提供できそうですね。実現に向けてはどの様な技術的な改善を実施するのでしょうか。

【写真5】テラス社 江﨑氏

【写真5】テラス社 江﨑氏(出典:情報通信総合研究所撮影)

テラス【江﨑】:ソリューションにはミリ波を活用したセンサーというハードウェアと、実際に職員のみなさまに毎日活用して頂くダッシュボードというソフトウェアがあります。ハードウェアの進化も重要ですが、それと同時にソフトウェアの進化も欠かせません。2020年度の実証では、より職員のみなさまの仕事を理解する機会を頂き、ソフトウェア部分を進化できたと考えております。

―(ICR)そうですね。職員が毎日活用するのは、データを見るダッシュボードになりますね。ソフトウェアを進化させることで、より効果的なデータを提供できるようになるのではないかと思います。技術実証や運用実証以外で、実装に当たっての課題はありますか。

ドコモ【狩田】:技術実証と運用実証以外にも、これを事業として成立させるためには私たちが取り組まなくてはならない別の課題があります。社会保障に充てられる予算のみを当てにして活用するのでは持続性が保てません。介護を受ける方や介護施設の職員にTellus見守りセンサーを製品として進化・普及させていく必要があります。

そのためには、介護現場でのソリューション導入を行う企業との連携や継続的な改良がますます重要になると思います。

【図5】ダッシュボードのイメージ

【図5】ダッシュボードのイメージ
(出典:ドコモより資料提供)

<3:今後の実証で検証するポイント>

―(ICR)2019年度から実証に取り組まれてますが、今後はどの様なポイントを検証するのでしょうか。

ドコモ【安部】:3年目の実証は「事業化」が大きなテーマです。2年目で培った技術面、運用面の検証を礎として、施設の事業運営上の課題を解決できるかについて肉薄していきたいと考えています。2021年12月から連携するシーナ社は介護施設運営だけではなく、同社のグループ会社が持つITリソースを活用し、介護される側、する側にとって快適な介護商材開発を行っている企業の一つです。

【図6】今後の実証の目的

【図6】今後の実証の目的
(出典:ドコモより資料提供)

―(ICR)シーナ社との連携ではどの様な効果が期待されますか。

ドコモ【狩田】:シーナ社のような、施設運営と共に介護商材開発を行う企業との実証実験は今回新しい取り組みであり、より現場に使ってもらえるようなヒントを得られる大きな機会だと考えています。顕在化したニーズにとどまらず、潜在的なニーズを見つけ出すきっかけになればと思っています。

―(ICR)介護施設の事業運用を手掛けているシーナ社と連携することで、介護現場のニーズに合ったソリューションが開発できそうですね。テラス社は、今後どの様な検証を進めるのでしょうか。

テラス【江﨑】:今回の実証実験では、主にデータの活用に着目しています。蓄積したデータを活用して、夜間の巡回や利用者の危険な状態を未然に防ぐ取り組みができるかどうかを検証していきます。介護施設と違い、サービス付き高齢者住宅では自立度の高い方が比較的多くいらっしゃいます。自立度の高い方は、介護レベルの高い方と比べ介入の頻度が少ないため、状態をモニタリングすることが難しいなどの課題があるようです。高齢者住宅を訪問される(訪問介護)職員のみなさまは、なるべく利用者の生活を妨げず、必要な時に必要なケアができるソリューションを求めています。

今後蓄積されていく生活リズム等のデータを収集・分析し、職員の方に共有することで、各利用者に最適なケアが実現できるようになると期待しています。

<4:今後の展望>

―(ICR)神戸市における高齢者向け見守りサービスの実証実験で今後実施していきたいことや展望をお聞かせください。

ドコモ【安部】:昨年度の2施設での実証でも運用上の様々な課題が明らかになりました。機器が動作することにより、夜間の見回りなどに対する介護従事者の業務の削減効果はありそうでしたが、この恩恵をより多くの介護施設に実感してもらうためにも、さらに工夫をしていきたいと考えています。

テラス【江﨑】:コスト面、介護保険制度面の課題もありますが、やはりこのセンサーを利用することで、介護される方の状態を可視化し、データに基づいて、介護される方々それぞれにとって望ましい介護状態への改善を行うことが、さらなる付加価値を生み出すことにつながると考えています。それをシーナ社やドコモのみなさんと今回の実証で明らかにしていきたいと考えています。

ドコモ【山浦】:ベッドマットセンサー、排泄補助ツールなど、介護に用いられるハード/ソフトは多数存在します。一方、それらの多くは互いに連携しておらず、使いにくい面があるとのご意見を現場の方々から伺うことが多いです。Tellus見守りセンサーを中心とした介護パッケージを普及させていくには、こうした他のハードやソフトと連携できる必要があると考えています。開発を進めている介護パッケージの普及を目指し、包括的なソリューションとしてさらなる開発を進めていきたい考えています。また、今後は施設だけではなく、在宅での介護が増えていくと予想されるので、2020年度に熊本市のみなさまのご協力により実施できた在宅ケア実証の結果も踏まえて、地域の実情に最適化されたソリューションを模索していきたいと思います。

―(ICR)今日お話を伺って、超高齢化社会にも対応できる新たな介護ソリューションのイメージが伝わってきました。引き続き実証に取り組まれると思いますので、またこのような機会を頂けるとありがたいです。今日はありがとうございました。

【写真6】左から:山浦氏(ドコモ)、塚本氏(シーナ)、糟谷氏(シーナ)、 岡田氏(翔月庵 神戸大開※)、山端氏(翔月庵 神戸大開)、江﨑氏(テラス)、カルドウェル氏(テラス)

【写真6】左から:山浦氏(ドコモ)、塚本氏(シーナ)、糟谷氏(シーナ)、
岡田氏(翔月庵 神戸大開※)、山端氏(翔月庵 神戸大開)、江﨑氏(テラス)、カルドウェル氏(テラス)(出典:情報通信総合研究所撮影)
※翔月庵 神戸大開:シーナ社の運営するサービス付き高齢者向け住宅。2021年12月より開始する実証の実施施設。

[1] Proof of Conceptの略で概念実証と訳される。新たな発見や概念について実現可能であるかを実証することを指す。

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