米国次期政権を前に身構えるEU

米国では第二期トランプ政権が誕生し、デジタル化政策から気候変動まで、これまでの両地域が共通に取り組んできた課題に大きな影響を及ぼす可能性がある。以下はそうした見通しを背景とした欧州での議論を概観する。
貿易技術協力の対話枠組み
欧州と米国ではTTC(the EU-US Trade and Technology Council/EU米国貿易技術評議会)の枠組みを通じて2021年から定期的に会合を持ち、通商・経済における協力関係の強化を図ってきた。TTCは欧米間経済関係の活性化、2地域間貿易・投資の強化、民主主義的価値観の共有を推し進めながら、技術と産業におけるリーダーシップを強化することなどを目的としている(図1)[1]。

【図1】EU-米国間の経済通商協力(2024年4月)
(出典:EU資料より抜粋 https://www.eeas.europa.eu/eeas/european-union-united-states-relations_en)
2024年TTC共同声明では、双方が2050年までに温室効果ガス排出量を気候中立(カーボンニュートラル)にする意向であり、2023年12月に開催されたCOP28国連気候会議で、脱炭素エネルギーシステムへの移行の一環として、2030年までに世界の再生可能エネルギー容量を3倍、エネルギー効率改善を2倍にするという世界目標の合意に向けて緊密に協力したことを成果として挙げた。また、陸地・海洋を保全または保護すること、欧米が連携推進したグローバル・メタン誓約に関するコミットメントなどを表明していた。
会合では人工知能(AI)、半導体、第6世代移動通信システム(6G)分野などでの協力強化に一定の成果が見られたものの、EU・米国間の鉄鋼・アルミニウム製品の関税問題や、米国インフレ削減法の下でのEUからのEV輸入に関する税控除の扱いについては、具体的な進展は見られなかった模様である[2]。今後のTTC対話継続を危ぶむ現地報道もあるとのことだ。
トランプ政権のインパクト
トランプ次期政権が、上記のような継続的な協力関係にどのような影響を与えるかについては、EU当局、産業界も現時点では見通せず、状況を注視している状態と考えられる。
トランプ前政権(2017-2021年)下では、125に上る環境規制の撤回/取り下げ措置が実施されたと報じられており[3]、米国はパリ協定から離脱し、再エネよりもむしろ化石燃料の生産を促進した。発電設備からの炭素排出削減、石油やガス採掘サイトのメタン排出削減を目的とした計画(クリーン電力計画)は廃止された。こうした過去の前例から、EUは、今後、世界が連携すべき気候変動対策に障害が及ぶことを懸念している。第二次トランプ政権では、多国間気候イニシアチブへの参加取り下げや排出削減に関するEUと米国の共同対策を拒否するといった可能性がある。
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※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
[1] 直近では2024年4月にベルギー、ルーバンで開催。
https://www.commerce.gov/news/press-releases/2024/04/us-eu-joint-statement-trade-and-technology-council
[2] https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/04/b125c4c39092e6df.html#
[3] https://www.washingtonpost.com/graphics/2020/climate-environment/trump-climate-environment-protections/
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