2022.9.29 ICT経済 InfoCom T&S World Trend Report

ICT関連消費の動向 ~インターネットを利用した消費支出とライブコマース

justynafaliszek from Pixabay

2022年4-6月期の実質GDPは、民間消費がまん延防止等重点措置の終了を受けて、前期比1.1%、前期比年率2.2%のプラス成長となった(前年度月比では3.1%増[1])。内容を見ると、宿泊・飲食サービス、旅客輸送、レジャーといった対面型サービスへの需要の高まりを背景に主にサービス消費が増加した。一方、弊社発表「Infocom ICT経済アップデート[2](ICT関連経済指標[3]をもとにICT経済の景気動向を分析。指標の枠組みは図1を参照、以下「ICT経済アップデート」)によると、ICT関連消費[4]は前年同期比マイナス8.1%と減少し、マイナス幅は1.8ポイント悪化した[]5。ICT関連消費が前年同期比で減少した主な要因は、携帯電話使用料の減少である。

【図1】ICT関連経済指標の枠組み

【図1】ICT関連経済指標の枠組み
(出典:情報通信総合研究所作成)

本稿では、日本国内のICT関連消費の動向について概観のうえ、今後を展望する。まず「ICT経済アップデート」掲載のICT関連消費の動向を概観する。ICT関連消費とはICT関連の消費動向を捉えるための指標であり、総務省「家計消費状況調査」からICTに関連する財やサービスの品目を抽出し、その消費支出金額を合計した値である。家計消費支出全体の前年同期比に対するICT関連消費の寄与度(その増減にどの程度貢献しているのかを示す値)を見て、消費全体におけるICT関連消費の動向を捉えている。次に、ICT関連消費という点で、より広義となるインターネットを利用した支出動向を見ることにより、ICT関連消費を捉える(図2)。なお、インターネットを利用した消費支出の動向は、弊社発行の「ICT経済報告[6](四半期に1度発行)に今後掲載していく予定であり、本稿はその紹介とする。最後に、最近のインターネット利用による新たなEC動向として注目されるライブコマースの動向を捉え、今後を展望したい。

【図2】ICTに関連する消費

【図2】ICTに関連する消費
(出典:情報通信総合研究所作成)

ICT関連消費

「ICT経済アップデート」によると、ICT関連消費は、前年同期比マイナス8.1%と4期連続で減少した。項目別の寄与度を見ると、スマートフォン等の通信・通話使用料、スマートフォン等の本体価格は減少幅が縮小したものの、テレビ、パソコンの減少幅が拡大した(図3)。スマートフォン等の通信・通話使用料の減少の背景としては、菅政権で実現した「携帯電話の通信料引き下げ」がある。国内携帯大手3社は、2020年10月以降、2018年比で6~7割ほど低廉な料金プラン(契約やサポートはオンラインで実現するオンライン専用プラン)を相次いで発表し、その後も大手3社以外を含め各社は市場競争の中で通信料の引き下げを行ってきた。具体的には、NTTドコモ「Ahamo[7]」、KDDI「povo[8]」、ソフトバンク「LINEMO[9]」等、市場では低価格プランが普及してきており、2022年3月時点でNTTドコモ「Ahamo」の契約者数が300万契約になること[10]、KDDI「povo」の契約数は120万契約程度であること[11]が公表されている。また、テレビへの支出の減少は、中国・上海の都市封鎖(ロックダウン)で出荷や物流が停滞したことや、新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要で好調だった前年同期の反動が影響している。加えて、2011年からの地上デジタル放送完全移行時に購入したテレビの買い替え需要の一服もある。パソコンの減少幅が拡大している要因としては、テレワークの普及によるパソコンの買い替えや新規購入需要が一巡してきたことが想定される。

【図3】家計消費支出に占めるICT関連消費の寄与度

【図3】家計消費支出に占めるICT関連消費の寄与度
(出典:総務省「家計消費状況調査」より情報通信総合研究所作成)

このように、経済全般では消費が回復しているものの、ICT関連消費は通信業界向けの政策や新型コロナウイルスによるライフスタイルの変化に伴う需要の一巡により、消費全般とは異なる動きを見せている。そのため、ICT関連消費をより広い範囲で捉える観点から、インターネットを利用した消費支出動向を概観する。

インターネットを利用した消費支出

総務省「家計消費状況調査」によると、2021年のインターネットショッピング利用世帯割合は初めて50%超となったことが報告された(図4の折れ線)。「家計消費状況調査」の調査項目は、電子マネーの利用状況や、ネットショッピング(ネットを通じた商品・サービスの購入)に関しては、食料や出前、健康食品、化粧品、家電、衣類、書籍、旅行関係費など、代表的な22項目への支出額である。インターネットの普及とともにインターネットショッピングの利用世帯割合は上昇し、新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛などでさらに利用が加速した。

【図4】インターネットを活用し消費を行った世帯の割合と支出金額

【図4】インターネットを活用し消費を行った世帯の割合と支出金額
(出典:総務省「家計消費状況調査」より情報通信総合研究所作成)

2021年のネットショッピング支出額(インターネットを利用した支出総額を調査対象全世帯で除した金額。図4の棒グラフ)の1カ月平均は18,727円(前年比14.6%増)と大幅に増加した。インターネット利用を行った世帯に限定しても、インターネットを通じで注文した世帯当たりの支出総額は、1カ月平均で35,470円(前年同期比6.3%増)と増加している。

インターネットショッピングを利用した世帯の割合は、2021年12月には56.0%に達し、それ以降は横ばいで推移しており、2022年6月時点では53.0%である。外出制限の解除等の影響もあり、インターネットを利用した世帯の増加の勢いは一時期に比べなくなっていると言えよう。

図5はインターネットを利用した支出に占める品目別(消費財[12]、サービス[13]、デジタルコンテンツ[14])の寄与度を示している。2022年4-6月期では月平均で消費財は11,621円(前年同期比1.0%増)とインターネットを活用した支出総額全体の57.2%を、サービスは7,852円(同45.5%増)と同38.6%、デジタルコンテンツは849円(同0.7%減)と同4.2%を占める。図5では、2016年1-3月期から直近の2022年4-6月期までの品目別の支出が支出全体の増減にどの程度貢献しているのかを捉えることができる。新型コロナウイルス感染症の自粛制限の前の期間である、2019年以前にはインターネットを利用した支出は、2016年10-12月期以降、消費財、サービスともに好調であった。2020年1-3月期以降は外出自粛を受けて、旅行等のサービス消費が減少し、消費財が大幅に増加に寄与したことがわかる。デジタルコンテンツは、支出額が消費財、サービスに比べ少額であることから増加の寄与は小さいものの、2020年4-6月期から2021年1-3月期まで増加に寄与している。これは外出自粛による巣ごもり消費が増加したことが背景にあると想定される。2021年4-6月期以降は、徐々にサービス消費が回復してきていることも明らかである。具体的には旅行費が増加を牽引している。

【図5】インターネットを利用し消費を行った世帯の割合

【図5】インターネットを利用し消費を行った世帯の割合
(出典:総務省「家計消費状況調査」より情報通信総合研究所作成)

なお、図5によると、インターネットを利用した支出は、2016年10-12月期以降、増加幅の度合いは変動しているものの、増加傾向が続いている。つまり、購買行動においてインターネット利用が浸透してきていることを示している。

ライブコマース

インターネットを利用した支出の増加は、新型コロナ禍をきっかけにしたライフスタイルの変化という消費者側の要因の影響が大きい。一方で、インターネットを利用した支出を拡大させる事業者側の取り組みとして、ライブコマースが注目されている。本節ではその動向を取り上げたい。ライブコマースは、SNS等のライブ配信やHPを通じて商品をリアルタイムに紹介し、コメント等で消費者と双方向でやり取りを行いながら販売につなげるもので、生配信ならではの臨場感があること、消費者はリアルタイムに質問等を行いながら商品を購入できる点が特徴である。例えば、図6掲載の資生堂のライブコマース用のライブ配信サイトでは、化粧品の使い方や効果等の紹介をライブ配信で行っている間に、視聴者は質問、悩みや感想等をコメントし、質問に対して回答を得ることができ、気に入れば当該サイトで購入できる。中国は、インターネット人口の半数以上がライブコマースでの購入経験があり、ライブコマース先進国である。KOL(キーオピニオンリーダー)と呼ばれる商品の購入に影響をもたらす、特定分野に専門知識を持つ人材の存在がライブコマースの市場拡大に貢献していると言われている。

【図6】資生堂のライブコマース

【図6】資生堂のライブコマース
(出典:資生堂「SHISEIDO GLOBAL FLAGSHIP STORE ライブ配信」
https://brand.shiseido.co.jp/gfs-livestream.html)

国内では、化粧品メーカー、衣料品や百貨店、家電量販店、インテリア小売業等でライブコマースが行われるようになってきている(表1)。事業者にとってのメリットとしては、商品の魅力や商品にかける思いを動画で伝えられること、距離の制約を受けず双方向にコミュニケーションを行い、理解を得られること、自社のサービス・商品や自社が取り扱っている商品のファンを醸成できること等があり、顧客にとってのメリットとしては、商品の品質や使い方、サービスに関する質問をすることにより、それらへの理解が深まること等が挙げられる。

【表1】ライブコマースの主な国内事例

【表1】ライブコマースの主な国内事例
(出典:公表情報より筆者作成)

おわりに

ICT関連消費の動向を把握するうえでの今後の課題は、景気全体の動向とICT関連消費、インターネット利用支出の増減の関係について分析を深め、実態を捉えることである。

事例として取り上げたライブコマースは、新型コロナウイルス感染症予防に向けた外出抑制の環境下で注目されるようになり、国内での成功事例もでてきている。これまでのECに比べ、商品・サービスの品質や提供者側の商品に対する思いを伝えやすく、消費者側では商品・サービスの機能や提供者側の当該財・サービスへの思いに対する理解も深まるものである。相互の情報のやり取りにより、情報の密度を高めることに貢献する。ICTを活用した消費は、事業者側の新たな取り組みと消費者のライフスタイル・消費スタイルの変化により拡大していくことが見込まれ、その動向は今後一層注目される。

[1] 内閣府経済社会総合研究所「2022年4~6月期四半期別GDP速報(2次速報値)」(2022年9月8日)。

[2] https://www.icr.co.jp/newsletter/category/corner/ ictecon 加えて、より詳細な動向を記載した「ICT経済報告」を四半期に一度公表している。

[3] ICT関連経済指標は、九州大学篠﨑彰彦研究室で開発された指標を、情報通信総合研究所で維持・更新し、必要に応じて改善している。

[4] ICT関連消費指数は、総務省「家計消費状況調査」からICT関連消費を抽出したものであり、携帯電話利用料、固定電話使用料、インターネット接続料、パソコン、テレビ、移動電話等の支出が含まれている。

[5] 実質GDPは前期比。ICT関連消費は前年同期比でその動向を見ている点は注意を要する。

[6] https://www.icr.co.jp/service/infocom-ict/

[7] https://ahamo.com/

[8] https://povo.jp/

[9] https://www.linemo.jp/

[10] 日経XTECH「オンライン専用プランで一人勝ちのドコモ、『ahamo大盛り』に見える苦悩」(2022年4月1日) https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00745/032500112/

[11] ケータイWatch「KDDIの『povo』契約数は約120万件に」(2022年5月13日)https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/1409168.html


 

[12] 消費財には、食料、家具、家電、衣類、化粧品、保険・医療、書籍、自動車等関係用品、贈答品等がが含まれている。

[13] サービスには旅行、チケット、保健等が含まれている。

[14] デジタルコンテンツには、音楽・映像ソフト、ダウンロードコンテンツ等が含まれている。

[15] ECのミカタ「三越伊勢丹がライブコマースで過去最高の売上 ECを通して実現する新時代の百貨店モデル」(2019年11月20日)https://ecnomikata. com/ecnews/24285/

[16] 販促会議「三越伊勢丹がインスタライブ配信 売り上げは前年比110%に」2020年4月号https://mag.sendenkaigi.com/hansoku/202004/idea-techniques/018482.php

[17] リテールガイド「小田急百貨店が画面上で接客が受けられ、購入もできる『接客型ライブコマース』を実施」(2022年4月21日)https://retailguide.tokubai.co.jp/store/5949/

[18] 資生堂「資生堂、消費者の購買意識変化を捉え、ライブコマースを国内で本格スタート」(2020年7月17日)https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002941

[19] 花王「花王、化粧品・美容情報発信専用スタジオを開設」(2021年7月5日)https://www.kao.com/jp/corporate/news/business-finance/2021/20210705-002/

[20] 日経電子版「花王、ライブコマースの専門部署 美容部員を教育」(2022年7月16日) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC052W30V00C22A6000000/

[21] UNIQLO LIVE STATION https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/live-commerce/

[22] ヤマダホールディングス「ライブコマースサービスによるオンライン接客販売開始のお知らせ」(2021年12月10日)https://www.yamada-denki.jp/topics/download.t.pdf/2429

[23] ニトリLIVE https://www.nitori-net.jp/ec/feature/NITORILIVE/

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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