沖縄市「Koza Wi-Fi」の終了と公共Wi-Fiの在り方
各地の自治体が、SSIDに地域名を冠した独自のWi-Fi(以下、「公共Wi-Fi」)を提供している。その目的は主に観光来訪者へのインターネット接続を提供すること、特に海外からの来訪者に対するサービス向上である。以前は観光庁が実施する調査[1]において、訪日外国人の不満として「Wi-Fiの未整備」が強く指摘されたこともあって、観光地を抱える自治体を中心に公共Wi-Fiの整備が進められてきた。また、TwitterなどのSNSが影響力を持ち始めたことから、来訪者がSNSで地域の魅力を発信することを期待し、来訪者のネット接続環境を整えようとする動きもあった。今では当たり前のようになっているが、地域独自のSSIDによる公共Wi-Fiは2012年度にサービスが開始された福岡市と京都市の取り組みが契機となっている。それ以前は自治体が独自SSIDによるWi-Fiを提供しようとすると、自らWi-Fiネットワークを構築しなくてはならず、非常に大きなコストがかかっていた。Wi-Fiへの接続や認証に通信事業者のサービスを活用することで比較的安価にWi-Fiを整備できるようになったのは、この両市の取り組み以降である。
この公共Wi-Fiが、今年大きな節目を迎えている。当社およびNTTグループがコンサルティングから導入・運用までお手伝いした地域でも、沖縄市が本年3月末で提供終了、そして、公共Wi-Fiの最優良事例の一つである福岡市も令和6年度末でのWi-Fiサービス提供終了を発表している。終了の理由としては、Wi-Fiの整備が進んだことや通信環境の多様化などが示されているが、「いつまで自治体が税金でWi-Fiを運用するのか」という予算面での指摘も大きいと推測される。
ここで、筆者も立ち上げから関わっていて思い入れもある、沖縄市「Koza Wi-Fi」を少し振り返ってみたい。同サービスの開始は2013年4月26日、提供目的は沖縄市への来訪者がいつでもどこにいても、ネットに接続して沖縄市の観光情報を入手したり、地図情報を使ったりできるようにすることだった。そのため、アクセスポイントは「沖縄こどもの国」や「コザ運動公園」などの観光・集客スポットにも設置されていたが、「コザゲート通り」や「中央パークアベニュー」などのストリートを丸ごとWi-Fiエリアにしていた。つまり、スマホを片手に歩きながらでも(歩きスマホは、危険です!)、車で移動していてもWi-Fiが途切れない、国内でも珍しい最先端のWi-Fiサービスだった(図1)。
Koza Wi-Fiは、同時にスタートした観光ポータルサイトや動画サービスとも連動しており、沖縄市の観光振興に大きな役割を果たしたと評価したい。その後もアクセスポイントの拡大など利便性向上に向けた改善が続けられる一方で、行政がWi-Fiサービスを提供し続けることの意義が問われるようにもなってきた。提供当初と比較するとスマホのデータ通信料金は割安になっているし、ホテルや交通機関でのWi-Fi整備も進んだ。さらに、自らWi-Fiルーターを持参する訪日客も少なくないため、昔ほど「来訪者のネット環境を整えなくてはならない」という時代ではないのだろう。その点では、公共Wi-Fiとしてのサービス終了も妥当な判断かもしれない。
その一方で、スマホ・ネットへの依存度は以前とは比べ物にならないほど大きくなっている。例えば、キャッシュレスが進んで「通信環境がなければ買い物ができない」なんてことは、これまで想定もできなかった。今だからこそ、改めて行政がWi-Fiを保有することの価値を考えてみてはどうだろう。以前から指摘されているが、地震・台風などの災害時や、通信会社のネットワークトラブル発生時など、緊急時の通信確保手段としてWi-Fiは有効である。また、子ども達もGIGAスクール構想のタブレット端末を持っており、その通信手段として公共Wi-Fiを活用することも考えられる。さらには、Wi-Fiから取得される接続データやログをビッグデータとして活用し、観光などの行政施策に反映することも可能である。加えて、メタバースなどリッチコンテンツの配信や、観光や行政窓口でのAIを活用したリコメンド機能による案内サービスにも、高速で大量のデータを送れるネットワークは重要だ。公共Wi-Fiを「訪日来訪者を対象にしたインターネット接続サービス」から、「地域独自の通信インフラ」や「地域活性化の情報基盤」として、見直してみてはどうだろうか。
[1] 「訪日外国人旅行者の受入環境に関する調査」
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
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