2022.7.28 地方創生 InfoCom T&S World Trend Report

地域発コロナ後の観光を考える(1)~倉敷美観地区を舞台として大学生たちが考える新たな観光サービス

Leng Kangrui from Pixabay

昨今、新型コロナ感染症の新規感染者数もピーク時に比べると落ち着きを取り戻し、国内外とも徐々に観光が再開されつつある。コロナ後においても、観光は国内外の需要を地域に取り込み、地域経済活性化や雇用機会拡大等をもたらす重要産業であることに変わりはない。その意味でも、これからはコロナ等の感染症と共存しながら観光促進をどう図っていくかが重要になる。

こうした新たな時代の観光および地域活性化の在り方を考えるにあたり、NTTドコモ(以下、「ドコモ」)は、将来の消費活動の主役であり、また、地域の観光産業を支える存在になっていく可能性のある若年層を巻き込んだ取り組みを倉敷市でも推進している。「ドコモグループが進める公共交通DXの最前線 ~データ徹底活用による社会課題解決と価値創出」(本誌2021年12月号)、「ドコモグループが目指す最先端高齢者見守り ソリューション ~データ活用がもたらす介護の新しい姿」(本誌2022年1月号))で取り上げた、神戸市におけるドコモの地域課題解決の取り組みにおける水平展開先の一つが倉敷市というわけだ。

本稿では、この倉敷市での観光課題解決に向けた取り組みの一端を紹介し、こうした取り組みが地域特性をふまえた新たな観光サービス・ビジネスを創出するのに有効なアプローチの一つとなることを紹介したい。

舞台となる倉敷美観地区とは

国内外ともに観光が再開されつつある中、ドコモが地域で観光産業を支える将来の人材育成を見据え、大学生・大学院生を対象とした一連の授業(演習プログラム)を提供し、地域の観光課題を解決しうる学生発意の新たな観光サービス創出を促そうとしている。その現場の一つが、日本有数の観光地の一つで日本遺産のまちとしても知られる岡山県倉敷市(人口約48万人)の中心に位置する「倉敷美観地区」(写真1参照)だ。

【写真1】倉敷美観地区の様子

【写真1】倉敷美観地区の様子
(出典:2022年6月18日、筆者撮影)

倉敷美観地区は、正確には「倉敷市倉敷川畔伝統的建造物群保存地区」と呼ばれる。江戸時代には天領として代官所が置かれ、物資輸送の拠点として栄えた商業の町だったそうだ。本瓦葺や白壁、なまこ目地瓦張りといった当時の風景を想起させる伝統的建造物と、大原美術館などの洋風建築物が見事に調和した町並みを誇っている。1979年(昭和54年)5月に国重要伝統的建造物群保存地区の一つとして指定され、40年以上の歴史を有しており、新型コロナウイルス感染症の拡大前には年間300万人を超える観光客が訪れる観光地域であった。

NTTドコモが提供する演習プログラム

倉敷市観光課、岡山大学の協力のもと、ドコモが提供するのは学生たちが地域の観光課題解決に取り組むための演習プログラムで、同プログラムは全4回+α(2022年6~7月)の授業で構成されている(図1参照)。参加するのは岡山大学文学部地理学教室(北川博史教授)所属の約20名の大学生・大学院生たちだ。

【図1】ドコモが提供する演習プログラムの概要

【図1】ドコモが提供する演習プログラムの概要
(出典:倉敷市観光課・岡山大学・NTTドコモ提供資料)

授業には安部孝太郎氏(NTTドコモ イノベーション統括部 担当課長)の進行の下、講義だけではなく、班に分かれてのグループワーク(ディスカッション等)や現場に出て行うフィールドワークの活動が含まれる。学生たちが頭にも体にも汗をかく構成としているのが特徴の一つだ。

加えて、先進技術ありきでその技術が解決しうる課題を発掘して当てはめていく形ではなく、課題を起点とし、その課題の解決策のアイデアが先にあり、そこに先進技術が使えるのであれば使う形としているのがもう一つの特徴だ。安部氏によれば「技術活用ありきで、それを当てはめていくのでは課題の重要性が考慮されない場合がある。あくまで観光課題を出発点とし、学生さんたちがどの課題を解決したいと思うのか、その想いを重視した取り組みとしている。その解決に技術が使えるのであれば使ってもらうスタンスで取り組んでいる」とのことだ。

筆者はこの演習プログラムの第2回(6月18日の活動)に同行する機会を得た。以下では、プログラムの第1回で倉敷市観光課より挙げられた「倉敷市の観光政策の課題」を振り返りつつ、課題を捉えた学生たちがフィールドワーク(美観地区ヒアリング/観察)を通じどのような観光サービスのアイデア創出に至ったのか、第2回の活動に焦点を当ててリポートする。

倉敷市における観光課題

第1回の授業で倉敷市観光課から学生にレクチャーされた観光課題は、図2に掲載した6点だ。例えば、「来訪者の滞在時間が少ない」といった課題については、2~3時間の滞在にとどまり次の場所に行ってしまう観光客が多く、それ故に市内宿泊客数が伸び悩むといった第二の課題にも関連していることなどがレクチャーされた。

【図2】倉敷市の観光課題

【図2】倉敷市の観光課題
(出典:倉敷市観光課・岡山大学・NTTドコモ提供資料)

また、欧州市場への観光プロモーションや二次アクセス(二次交通)対策が不十分であること、観光入込客数が横ばいであることについても説明があり、そこを伸ばしていくことの重要性についてもレクチャーされた。また、とりわけ「美観地区」に特化した課題についても教授されたことで、学生たちはこれらの課題を自分たちになりにどう解釈し、課題解決策を導出するのか、検討の材料とできたようだ。

観光課題解決に向けた学生たちのアイデア

学生たちは6~7名から成るA、B、Cの3班に分かれ、倉敷美観地区の観光課題の解決に向けたアイデアを話し合いながら整理する。各班には1人ずつドコモ社員がメンターとしてつき、学生たちの求めに応じて助言を行う態勢がとられた。メンターは一歩引きながら様子を見守りつつ学生主体の取り組みを担保した。

学生たちは課題をより具体的に把握するためであったり、自分たちのアイデアをより一層洗練させるため、フィールドワークとして街歩きをして観光客が観光している状況を観察したり、観光客や小売店・飲食店の経営者・店員等にインタビューを行ったりした(写真2参照)。

【写真2】倉敷美観地区内の様々な場所でフィールドワークを行う学生の様子

【写真2】倉敷美観地区内の様々な場所でフィールドワークを行う学生の様子
(出典:2022年6月18日、筆者撮影)

この日は天気に恵まれ蒸し暑い一日となる中、4時間以上の時間をかけて各班とも精力的にフィールドワークを行った。実際に観光客や小売店・飲食店の店員等に触れ合うことで、机上で検討していたアイデアは補強されたり修正を迫られたりして、具体化の度合いを深めていく。学生たちには多くの気づきがあったようだ。

フィールドワークで得られた情報は班ごとの持ち帰りとされ、ビジネスを通じた課題解決を目指す際に用いられる「リーンキャンバス」の枠組みに沿って整理が図られた。その整理の結果まとめられたアイデアは表1のとおりだ。

【表1】観光課題解決に向けたアイデア

【表1】観光課題解決に向けたアイデア
(出典:筆者作成)

各班のアイデアを簡単に補足しよう。

まずA班は、観光客を若年層や40-50代といった具合に区分し、その区分ごとに観光行動の特徴を捉えたのが特徴的だ(写真3参照)。若年層は食べ歩きをメインとして自分用の土産を買うのに対し、40-50代は他の人のための土産を買っていく傾向があるという。そうした購買意欲を実際の消費につなげていきたいが、土産物屋には独自商品があるにもかかわらず、それが十分に知られていないことから機会損失が発生している可能性を指摘した。そこで、イベントやSNS活用による情報発信を打開策の一つとした。

【写真3】A班がまとめたアイデア

【写真3】A班がまとめたアイデア
(出典:2022年6月18日、筆者撮影)

また、新規性のあるイベントの実施、既存のライトアップイベントとのコラボレーション、夜の閉店時間の早さや極端に混雑しない状況を逆手に取っての、安全に夜の町歩きができたりゆったり観光を楽しめたりすることのPR促進を通じた観光地としてのポジション底上げを提案した。

次にB班は、観光客側と飲食・小売商店側の双方の課題に注目し、両者を情報でつなげることで課題解決につながる可能性を示した点が特徴的だ(写真4参照)。同班では、効率的に観光をしたい観光客は混雑やそれに伴い発生する待ち時間を嫌がる、混雑していたらその店で待たずに諦めてしまう観光客が一定数存在することを発見した。一方の飲食・小売商店側も、いつどれくらいの混雑になるかの見通しが立てばそれに対して備えができる。これらの観点から商店側は観光客の滞留状況を、観光客側は商店の混雑状況・待ち時間情報をリアルタイムに把握しあえることが、双方にとって満足度の高い状況を作りだせるとした。

【写真4】B班がまとめたアイデア

【写真4】B班がまとめたアイデア
(出典:2022年6月18日、筆者撮影)

また、美観地区の特定の商店の施策としてではなく、美観地区一帯として相互送客に取り組むことや、SNSを活用して美観地区のPRの一翼を担った観光客にはタイムリーに特典を付与するといったアイデアが提示された。

最後にC班は、観光客の滞在時間をいかに延ばすか、それをどう消費拡大につなげていくかに焦点を当てたのが特徴的だ(写真5参照)。同班では観光客の滞在時間を延ばすためのサービスの一つとして、体験型着物レンタルサービスを提案。単なる着物レンタルではなく、観光客が楽しめるのに十分なサービスの幅を持たせることについて、具体的なサービスイメージに関するアイデアを提示した。

【写真5】C班がまとめたアイデア

【写真5】C班がまとめたアイデア
(出典:2022年6月18日、筆者撮影)

また、消費拡大につなげるために、地元のデニムを軸として地元小売店や飲食店等の間での相互送客をはじめとする異業種連携を図っていくことなども提案した。

この日の活動総括と今後の展開

筆者もこの日、観光客や小売店の店員に話を聞く機会を設け、例えば、団子屋に立ち寄ったが売り切れていて、次買えるようになるまでには時間がかかるため、「今行けば買える」といった情報が欲しかったという声を拾うことができた。これは学生たちがフィールドワークで得たものと同様の情報だ。

異なるところでは、美観地区内には「ダストボックスが見当たらず、空きペットボトル等を回収してくれる箇所があれば手がふさがらなくてよい」だとか、商店で買い回りをする際に「荷物にならないように配送してもらうのだが、個別店舗ごとに配送伝票を書かないといけないのが面倒だった」といった声が聞かれた。前者についてはダストボックスロボットを町中に巡回させるとか、後者については配送先情報を覚えさせたスマートフォンでタッチすれば配送伝票が出力されるといったソリューションが可能かもしれない。こうして観光客がストレスなく満足度の高い街歩きや買い物ができる状況を作りだせれば、消費拡大につながるはずだ。

このようなフィールドワークを通じて観光客や飲食・小売事業者の困りごと、抱える課題を具体的に把握することが観光課題解決に向けた様々なアイデア創出の契機になるということを、この演習プログラムに関わったすべての当事者の共通認識とできたことが、この日の活動の意義といえるのではないだろうか。

この日の活動を通じ、3人のメンターからは次のようなコメントがあった。「学生の皆さんは、最初は観光の課題にたいして粗い仮説を持っているにすぎなかったが、町中でインタビューを重ねるうちに仮説が具体的に更新されていった。子どもから意見を聞くときはしゃがんで目線を合わせるなど、真摯に声を拾うという姿勢に感服した」(野秋氏)。「知らない人に町中でインタビューを申し込み、答えていただくのは誰にでもできることではない。講義開始から現地フィールドワークまでの限られた時間で質問項目を整理し、具体的な情報を集めることに成功しており、学生たちの優秀さを直接目にすることができた。彼らが考案する事業案の発表が非常に楽しみである」(宮本氏)。

「こうした取り組みは、関わるすべての当事者にとってメリットを見いだせると思う。今日のアイデアを受けて、これから観光DXに関する技術の紹介をし、体験もしてもらう中で彼らのアイデアに活用できるか等を検討していってもらえたらと思う」(狩田氏)。

フィールドワークに入る前にインタビューする際の信頼関係の重要性や観察の有益性について学生たちにアドバイスをしていた北川教授は締め括り時に「今日の経験を経て、皆(研究や、調査において)一皮むけたと思う」と彼らの活動を評価したほか、倉敷市観光課の土井氏は「具体的な観点で考えられており、参考になる意見が多かった。アイデアには既に取り組もうとしていることも、まだ取り組めていないこともあるが、発表を聞いて今後の演習への期待が高まった」と総括していた。

この日創出されたアイデアのより一層のブラッシュアップに向けて、演習プログラムは7月いっぱい続く。最終的にどのようなプランに結実するかについてはまた別途リポートする。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。



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