2017年7月3日掲載 ITトレンド全般 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

「復元された前方後円墳を体験」-AR・VRの活用を考える-



まずは下の写真を御覧下さい。これは先日訪問した群馬県高崎市にある保渡田八幡塚古墳の写真です。この古墳は上毛野(群馬県)地域に数多くある前方後円墳の中では中規模(墳長96m、墳域全長190m、面積2万8000㎡)のもので、地元群馬町によって1985年に史跡指定がなされて以来、用地買収・発掘調査・基本設計・実施設計・整備工事が順次進められて、2008年に現在の姿に完成をみたものです。

保渡田八幡塚古墳の全景

保渡田八幡塚古墳の全景

この古墳の築造は5世紀後半で榛名山東南麓の扇状地が平野部に移行する場所にあり、3つの大型前方後円墳からなる保渡田古墳群のひとつです。その特徴は写真で分かるとおり、盛土の斜面には拳大から人の頭ほどの石がびっしりと葺かれていることです。造られた当時の姿を復元したものですが、中規模とはいえ、周囲の二重の堀まで含めた大きさに圧倒される大きさでした。約1500年前の上毛野の豪族首長が葬られた墓なのですが、私がこれまで見てきた前方後円墳は樹木に覆われるか背丈の高い草が密生しているものがほとんどでしたので、この保渡田八幡塚古墳のように全体が葺石に覆われている前方後円墳は初めての経験でした。完成した当時の前方後円墳も他の世界の巨大墳墓と同様、まさにビジュアルにこだわったものであることが大変よく分かり印象的でした。古墳外面の白い葺石、その間を赤い円筒埴輪の列が輪郭を描くように何本も幾重にも貫いている姿からは当時の人々の首長の墳墓(奥津城)に寄せる気持ちが伝わってくるようです。

さらに手前の内堤の上に54体の人物・動物・器物の埴輪が配列されて置かれています。これは当時の位置のまま出土した人物埴輪群をその場所に当時の姿で復元再現したものです。

八幡塚古墳の人物埴輪群(1)

八幡塚古墳の人物埴輪群(1)

八幡塚古墳の人物埴輪群(2)

八幡塚古墳の人物埴輪群(2)

このような形で再現できた理由は八幡塚古墳が完成してしばらく後に発生した榛名山噴火による火山灰やその泥流に覆われたため、元の位置・元の姿が保全されたためです。参考までに群馬県内には、西暦500年前後の榛名山噴火の火砕流で村が覆われたため、当時の村の姿や古代人がそのままの姿で発掘された「金井東裏遺跡」があり、日本のポンペイと言われています。興味のある方は群馬県渋川市にある「発掘情報館」を見学してみて下さい。

さて、八幡塚古墳の人物埴輪群は写真のとおり、葬られている首長の生前の数々の行動をいろいろなシーンに分けて再現したものとなっています。それぞれのシーンには具体的なストーリーが表現されていて見ていて楽しくなるものです。首長を中心とした祭儀の場面や軍事的な儀礼のシーン、猪狩りや鷹狩り、また鵜飼いの場面、そして甲冑姿の武人と馬具をつけた飾り馬など何らかのストーリーを示していて首長の生前の治世を共同体の構成員にアピールするためのものとなっています。まさに前方後円墳とは共同体の意思を立体的に示す大パノラマだったことがよく分かります。保渡田八幡塚古墳の他にも復元された前方後円墳は各地にありますので、古代人の目線で巨大な墳丘を体験してみて下さい。

前置きに長々と群馬県の前方後円墳のことを述べてきましたが、こうした科学的な専門領域の学術研究に立脚した歴史遺物・遺跡の復元は歴史や文化の継承にとって極めて重要な役割を果していると私は考えています。古墳時代より古い九州の吉野ケ里遺跡や青森の三内丸山遺跡も発掘だけでなく復元も進んで整備されてきています。全国各地で数多くの遺跡が発掘されていますので、さらに可能な知見を集めて復元が進められることを願っています。もし邪馬台国の卑弥呼の都が発見されたなら第1級の復元候補になるでしょうし、まさに国家プロジェクトものです。

そこで私は実際の復元工事(造築)の前に、ITを使ってAR・VRによってビジュアルな再現を図ることを提案したいと思います。既に有名な都跡や城跡などではAR・VRアプリによって当時の建物や街並みが再現されスマホで見ることができます。これはもっぱら観光目的やいろいろなイベント向けなのでどの程度専門分野の知見に基づいているのか明確ではありません。著作権も当然それぞれの製作者に帰属しています。AR・VRを用いた歴史遺物・遺跡を映像で再現するプロジェクトを全国の文化調査機関や博物館で共同して進められないものでしょうか。こうした映像による再現が進めば、さらに実際に復元し展示保存する途筋もつき易くなると思います。

私の趣味のひとつに城跡探訪があります。城跡といっても石垣や天守閣など建物を巡るのではなく、土に刻まれた土塁や空堀、曲輪や馬出しと呼ばれる城郭構造が対象ですので、現地は草に覆われ藪が繁るところです。鎌倉期から南北朝、戦国期の居館や山城が中心です。この場合、AR・VRによって当時の城郭が再現され映像で見てみたいとずっと思ってきました。ただ、城跡といっても同じ場所で何度も改造、増強がされていますので、例えば何年の合戦時に合わせて再現するのは本当に大変な作業となりますし、どうしても城郭研究の専門家の協力が必要となります。土に刻まれた歴史を可視化することができるAR・VR技術に期待しています。併せて著作物としての管理方法もしっかり確立しておく必要があります。

先日、NTTの鵜浦社長がVRや3D映像技術を活用した娯楽サービス向けのシステム技術を遊園地や劇場などに販売する方針を明らかにしたとの報道がありました。VR技術は近年飛躍的な進展を見せており、ICT分野における事業性が高まっていますので大きな流れとして期待できそうです。ただ最後に娯楽性だけでなく、歴史遺物・遺跡の映像再現を通じて、私達の歴史遺産を豊かにするいろいろな取り組みにも併せて貢献することを願っています。遺跡や城跡の復元は歴史文化の継承だけに止まらず、地味ですが地域興し・地方創生に繋がる途ともなります。AR・VRの活用の場が広がることを期待しています。

参考文献:「東国から読み解く古墳時代」(若狭徹氏、吉川弘文館)

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS