2015.2.26 IoT ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

情報通信ネットワークサービス:2015年の期待

2015年、明けましておめでとうございます。昨年末12月14日の衆議院総選挙の結果、与党の勝利となりデフレからの脱却、いわゆるアベノミクス政策の継続が確認されました。2014年に引き続き、経済成長に期待がかかる1年が始まります。そこで恒例ではありますが、今年の情報通信の商品・サービスについてのヒット予想について述べてみたいと思います。少し前になりますが、昨年11月13日付の日経産業新聞に「2015年ヒット予想─専門家に聞く」という記事が掲載されました。これは“日経産業地域研究所が各界の専門家80人を対象にした”調査ですが、その中のトップ10にICT関係の商品・サービスが3つ入っているので、ここで紹介して私の感想を述べることにします。


第3位に「スマホ格安競争」、第5位に「画像・動画投稿の進化」、第7位に「ウェアラブル端末元年」の3つがランクインしています(ちなみに、第1位は「北陸新幹線開業」です)。さらに、同時に「新市場創造」期待度ランキングという分野もあり、そこではウェアラブル端末が第1位となっています。これから窺えることは、ICT分野の期待は、料金(価格)低下及び動画SNS(アプリとコンテンツ)という2014年から続く市場構造の変化とサービス分野のイノベーションと、加えてウェアラブル端末というデバイスの新しいイノベーションという2つの流れに集約されるということです。ICT分野というとイノベーションに注目が集まるのですが、ヒット予想にせよ、新市場創造期待度にせよ、残念ながらその中に情報通信事業の基盤となるネットワークに関するイノベーションがひとつも入っていません。情報通信ネットワークは既に成熟化してイノベーションの余地がなくなってしまったのでしょうか。情報通信分野のイノベーションの主流は、料金競争や動画SNS、ウェアラブルデバイスといった身近で使い勝手のよい分野となっているように思われます。当面はこうした流れに沿わない限り、日本の情報通信産業の未来はないように感じます。実際、米国勢に新しいイノベーションの源泉があるので、米国勢からいかに早く取り入れるのかが情報通信産業の課題とならざるを得ません。モバイル通信サービスの分野こそこれからのイノベーションの源泉と言えますが、こうしたサービス開発では米国発に遅れを取っているのが現状です。


近年、日本の貿易収支が赤字に陥り、経常収支の大幅な減少をもたらしている原因のひとつに、スマートフォンの輸入拡大以降の通信機の急激な輸入増加=貿易収支の赤字化(2013年に2.1兆円の赤字)があげられます。また、情報通信関連のサービス収支のうち、コンピューター・情報サービス分野でも近年赤字幅の増大がみられます。こうした現状を打破するためにも、情報通信産業分野の日本発のイノベーションが求められているところです。残念ながら、2015年のヒット予想をみる限り、情報通信分野のイノベーションで日本のGDP拡大に広く結びつくものはみられません。特に、モバイル通信分野では、やはり輸入スマホ等のデバイスと外国発のサービスが中心となっています。ここは日本の強みとなっている通信ネットワークに基づくイノベーションの道を探っておく必要があると私は考えています。


特に、サービスイノベーションに結びつくモバイル通信ネットワークの強みと厚みを活かして、今こそ将来に向けた種々のサービス開発の仕込みを図っておくタイミングではないかと思います。MVNOによる競争の活発化は当面低価格化の方向にあるので、端末・通信サービスの両方とも市場規模の縮小をもたらすでしょうし、外国製端末の増加を招くことになると想定されます。さらに、モバイルネットワークの高速化・成熟化もまた、米国発の動画SNSを一層普及させて、サービス収支の赤字拡大につながります。短期的には、この流れを変えることは難しいので、今はモバイル通信ネットワークをより一層活かすサービス開発を追求してはどうかと思うのです。


例えば、従来から指摘されてきたIoTへのさらなる注力です。IoTのサービスイノベーションを実現するためには、2つの条件が必要になります。ひとつは、各種のセンサーから集約される厖大なデータから新しいサービスに結びつく意味のある現象を解析する方法や仕組みを作ること(いわゆるビッグデータの世界)、もうひとつは通信ネットワーク会社に拘束されずにIoTの対象を広範囲に設定することです。世の中には複雑なデータが入り組んで起きている現象や現場が多数ありますので、IoTの適応領域に不足はありません。まずは、ヘルスケア・医療でも、農業、流通、観光でも、いろいろな活動に目標を定めて分析できるようにデータを収集することが大切です。データを集めたがっている企業や自治体は数多くありますが、問題はベンダー単位で構築されてしまうと複雑なデータの相互連関性が失われてしまうことです。そこに情報通信ネットワークの出番があります。


加えて、モバイル通信サービスで構築されてきたLTEネットワークの上での付加的なイノベーションを探究する余地があるように思います。当社情総研のホームページにある私のコーナー「風見鶏」に“アンライセンス周波数のLTE通信実験から思うこと”(2014年10月3日掲載)と題して投稿しましたが、現在Wi-Fi対応となっている免許不要の周波数帯域をLTE方式で利用しようとする動きがあります。現在のところ、技術標準化の途上ですし、通信キャリアとしては周波数の利用効率を高めて通信速度を向上させるキャリアアグリゲーションに将来用いようとするもので、現実のLTEネットワークとはなっていませんが、地域や施設を管理しているエリアオーナーとの関係が変わるものだけに、早めにそのビジネスモデルの構築を図っておく必要があります。


さらに、今年注目されている事象としては、LTE Broadcast(eMBMS)があります。これはLTE方式を用いて一斉同報を可能とするサービスで、既に韓国ではKTなどがサービスを行っていますし、米国でもベライゾンやAT&Tが今年中にサービスを開始する動きとなっています。通常のモバイル通信(ユニキャスト)と同一の周波数を使用するので電波リソースの配分が課題となりますが、スポーツやイベント会場、大勢が集まる都会の広場や商店街・ショッピングモールなどでのエリア限定的な一斉の動画配信には有効なサービスとなり得ると思います。こうなるとエリア限定の放送サービスに近づくことになりますので、動画広告などコンテンツ面で融合することが想定できます。将来の東京オリンピック開催時にも、この種の一斉同報サービスが競技会場などで必要となると想定できますし、狭いエリアでの急増するトラフィックマネジメントにも役立つのではないかと思います。もちろん、前述のアンライセンス周波数利用のLTEと組み合わせることで、そのエリアでの配信密度を高めることもできるし、エリアオーナーにとっても付加価値を高める工夫が広がることになりそうです。


残念ながら、今年のヒット予想中のICT関連で日本発のイノベーションは、MVNOの隆盛によるスマホ格安競争だけしかありません。これは制度や市場構造の変化からもたらされたものであり、欧米等先進地域では既に起っていた現象で特に新しさはありませんし、かつ、サービス供給者の視点からはモバイル通信市場規模全体の拡大となるとは限りません。一方、動画SNSにせよ、ウェアラブル端末にせよ、米国発のイノベーションなので日本のGDP成長やICT産業の拡大には残念ながら結びつきにくいものです。やはり、ここは日本のモバイル通信ネットワークの強みや厚みを活かしたサービス開発の原点に立ち戻って腰を据えて取り組むべきだと考えます。ここで取り上げたIoTとビッグデータ(クラウド)の連携やLTEの拡充領域だけでなく、通信ネットワークで作り出せるイノベーションにはまだまだ数多くのものがあるはずです。ただし、最後に一言、通信ネットワークのイノベーションに際して、ベンダーの動きに振り回されることのないよう主体性を持って進めるよう願っています。

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