2016年4月8日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

電力システム改革:小売参入全面自由化と最終供給保障・ユニバーサルサービス確保とのバランス-通信事業への教訓は?



いよいよ2016年4月1日に電力システム改革の第2段階、電気の小売業への参入全面自由化が実施されます。電力システムの改革では既に第1段階として昨年(2015年)4月に「電力広域的運営推進機関」が発足しており、さらに2020年には第2段階として法的分離方式による発送電分離、すなわち、送配電部門の中立性の一層の確保が予定されています。電力システム改革の実施によって小口を含むすべての需要家が電力会社を選択できるようになり、発電と小売部門では全面的な市場競争にさらされるので、既存電力会社のガバナンス改善にもつながることが期待できます。

今回の一連の電力システムの改革では、主に発電と小売という自由化部門が注目を集めていて、市場競争原理によって電気料金を最大限抑制することや、需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大することが取り上げられていますが、改革の目的の第一には安定供給の確保が掲げられていることを理解しておくべきでしょう。つまり、送配電部門の中立性や需要側の工夫を取り込むことで、需給調整能力を高めるとともに、広域的な電力融通を促進することが第一の目的なのです。東京電力福島第一原子力発電所の事故から5年が経過した一方、この事故が突き付けた国家・国民的課題としてのエネルギー政策の根本的見直しは十分に進展したとは言えません。こうした中での電力システムの改革なので、電気の小売料金水準を巡り、熾烈な価格・サービス競争と顧客獲得合戦が展開されていることは周知のとおりです。他業種・他地域からの参入、新技術による発電や発電投資の適正化、需要抑制策などのイノベーションを通じて電気料金の抑制を図るのが狙いであるものの、小売参入全面自由化のインパクトはまず低価格による囲い込み競争となって現れているのが実状です。

これから第3段階の送配電部門の法的分離を経て電力システム改革は完結しますが、この送配電部門は、(1)地域独占・料金規制、(2)料金による投資回収(総括原価方式)、(3)供給責任(最終供給保障・ユニバーサルサービス等)を設けた規制下に引き続き置かれることになります。また、送配電網を発電事業者や小売事業者による公正な利用に供するため、人事・会計等に関しても中立性確保の規制が課されます。ここで改めて見てみると、送配電事業者には従来の電力会社と同様に、地域独占の認定のもと、総括原価制の保証と同時に最終供給保障と離島への料金平準化措置(ユニバーサルサービス)を義務付けています。いわば、発電と小売を自由化して競争を促し消費者の便益を確保すると同時に、既存電力会社の有する送配電網へのダメージを絶対的に回避しつつ中立性を高めるという高度なバランスの上に立つ政策となっていることがわかります。電気事業という公益事業の維持と需要家側の多様化、発電技術等のイノベーションをバランス良く解決しようとするものとなっています。見事な知恵ということができます。

ただ、地域独占の保証と対の関係にあるのが、総括原価制(通信事業者にとっては昔懐しい響き)に基づいた料金規制と最終供給保障・離島でのユニバーサルサービス提供義務となっているので、電力コストの多くを占める送配電部門の生産性向上、発電事業者が負担する託送料金の効率化などがどうなるのか、電力システム改革の実質的な構造変化を見定める必要がありそうです。単純に小売の電気料金だけに目を奪われていると、結局、他分野からの参入者によるセット割引だけに関心が移ってしまって、肝心の電気料金水準の低下から離れてしまいかねません。送配電部門の効率化には、今回の小売自由化にあたりメーターの取り替え(いわゆるスマートメーター化)が行われるので、ICTを活用した需要側の工夫など(いわゆるHEMS、BEMS)と電気料金とを一体化する方策が組み込まれることが望まれます。サービスイノベーションの取り組みになります。

こうした電力システム改革と通信事業構造のあり方を比べてみると、通信事業はその当時の事業領域に対応して法的分離が既に15年以上前に実施されて、独占の保証はなく設備ベースの競争が幅広く行われてきました。もちろん、固定の地域網、バックホール回線、モバイル通信やネットワーク設備によって競争の状況には差はありますが、それぞれの分野とレベルにおいて設備競争をベースにして、最近ではさらに、卸サービスやMVNOなどオープン化を前提にした競争にまで進展しています。電気事業と比較して四半世紀以上のギャップがありますので、直ちに電力システム改革に参考になることはあまりありませんが、ひとつだけ、市場競争とユニバーサルサービスのバランスをどう担保していくのか、電力システム改革における送配電部門のあり方に注目しています。託送という事業者間の取引に対して、片方で地域独占を認めて、他方で料金規制を課す方式は旧来の電気事業の踏襲になっていますので、これからの市場競争とオープン化の時代に新しい方策が生み出されることを期待しています。

通信事業においては、アナログからデジタルへ、オールIP化への既存設備とサービスの巻き取りが今後進められることになります。通信事業では既に独占の保証はないので、ユニバーサルサービス事業者が監督当局によって認定されているだけです。NTT東西がその任にあたっていますが、ユニバーサルサービスのあり方、そのコスト負担の算定などの改定時の議論や根拠を見ていると必ずしも一貫しているようには思えません。既存の地域網の維持だけがユニバーサルサービスなのか、IP化やモバイル化時代のユニバーサルサービスとそのコスト負担(ユニバーサルファンド)について見直すべき時にきていると思います。この流れからモバイル通信各社が行っている基地局建設や保守・維持の一部をユニバーサルサービス事業者に委ねて、サービス提供の最終保障を確保する方策を検討してみてはどうかと思います。

この春から本格的に小売電気契約の獲得合戦がいたる所で展開されています。しかし、電力システム改革が途上なので顧客が得る料金・サービスの便益の多くが、既に市場競争が進展している通信や流通、エネルギー事業などからの持ち出しに由来するようでは困りものです。消費者をはじめ、既存の電力会社、他業種からの参入事業者それぞれがWin-Winの関係となることを願っています。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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