世界の街角から:ニューヨーカーは行進好き
世界で最も有名な街の一つ、ニューヨーク。
国際的な金融の都市、セレブの街、多種多様な人種が交差する街などさまざまに表現されるが、テレビやネットで伝わってくるのはほんの一面だ。そこを訪れた人、そこに住んだ人、そして後にした人、それぞれできっと街の印象は異なるだろう。
居住歴2年余りの筆者が感じ取ったニューヨークの一面は、パレードやデモなど何かと「行進」をする人々が多い街だった。
ニューヨーク州の中にあるニューヨーク市
移り住むまで詳しく知らなかったが、一口にニューヨークと言っても広い。北はカナダと国境を接するニューヨーク州は、全米50州中27番目の大きさながら、日本の北海道と九州を合わせた広さに匹敵する。
その州の南端にニューヨーク市があり、5つの区(Borough;ボロー)で構成されている。すなわち、再開発が進みおしゃれな店が並ぶ一等地へと変貌しつつあるブルックリン(Brooklyn)、世界一人種の多様性に富むとされるクイーンズ(Queens)、ニューヨークヤンキースの本拠地があるブロンクス(Bronx)、フェリーで向かう途中に自由の女神が拝めるスタテンアイランド、そして言わずと知れたマンハッタンの5つ区から成る(図1)。
クイーンズ区フォレストヒルズ
筆者はそのうち、市の東方、クイーンズ区のフォレストヒルズというエリアに住んでいた。知る人ぞ知る静かなエリアで、日本語で言えば「森が丘」みたいな感じだろうか。「森岡」だと何となく雰囲気が出ない。
フォレストヒルズには人気の米漫画『スパイダーマン』の主人公が住んでいた家のモデルがある。レンガ造りを思わせる外壁と三角屋根の家々が建ち並ぶのがフォレストヒルズの特徴だ。
また、これは帰国後に知ったことだが、ビジネスや教養の書として知られる名著『人を動かす』(原題 “How to Win Friends and Influence People”)の著者デール・カーネギーも住んでいたらしい。そのほか、「サウンド・オブ・サイレンス」などの曲で有名なフォークデュオ「サイモン&ガーファンクル」の2人は、フォレストヒルズ高校の同窓生であったとされる。
フォレストヒルズは高層ビルが建ち並ぶマンハッタンとは違い、概して緑豊かで落ち着いた雰囲気の住宅街だ(写真1)。
住みやすさや治安の良さから、日本人駐在員もそれなりに多く住んでいる。日本の食料品や生活用品が揃うお店もそれなりに多かった(写真2)。
フォレストヒルズ駅もそうした家々の風合いとの整合を乱すことなく、どこか懐かしさを感じさせる造りとなっている(写真3)。この駅から東方に延びる線路は、文豪や俳優の別荘も多いリゾート地、ロングアイランドへと続いている。その辺りの事情は村上春樹の短編紀行集『辺境・近境』に詳しい。
1年を通じてさまざまな行進
話題に尽きない街。そんなニューヨーク市では、頻繁にパレードやデモが行われる。主要な通りが車両通行止めになることが少なくなく、定期的に行政が「NYC Parades」の情報を提供しているほどだ。
特にマンハッタンでは大規模な行進がたびたび催される。多くは感謝祭やハロウィーンといった楽しげなもので、文字通りのマーチングバンドが練り歩いたり、山車を引いたりする。ポケットモンスターやドラゴンボールといった日本でもおなじみのキャラクターも登場する。しかし、時に政治的、あるいは「行進せずにいられない」衝動や必要性に駆られての行進もある。2011年の「ウォール街を占拠せよ」(Occupy Wall Street)などはその一例だ。
以下は筆者が滞米中に目にした行進の一部である(写真4~9)。
どの街でも、一度移り住んだことのある土地は、離れたその後もずっと第2、第3の故郷として懐かしく、そして気になるものだろう。本当ならば2020年より後も、もっとニューヨークに留まりたかった。しかし新型コロナウイルス感染拡大により、かなわなかった。
滞在2年ではとても見切れない、この紙幅では語り尽くせないニューヨークの見どころ、魅力はまだまだたくさんある。
2020年に帰国して以来、NHKの番組『キャッチ!世界のトップニュース』でニューヨークの最新情報を伝えるコーナー「@nyc」を見るのが週課、というかささやかな楽しみとなっている。帰国後しばらくはコロナ禍に喘ぎながらも懸命に生きるニューヨーカーの奮闘ぶりを陰ながら見守っていた。
コロナ禍が明けた今、幕を下ろしていたミュージカルは完全復活し、中止となっていたパレードも続々と再開している。なんともたくましい限りだ。
行進やら歩行者天国やら大道芸やらで年がら年中、何かしらのイベントで盛り上がっている、特にイベントがなくとも誰かが盛り上げている街。そんな活気に満ちたニューヨーク、いつかまた必ず訪れたい街の一つだ。
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